約 6,940,091 件
https://w.atwiki.jp/nwxss/pages/123.html
ウィザードは、適応する。 晶は柊によわよわしい笑顔を向けて、言った。 「これで…おあいこだよ。前にかばって…もらった分」 「バカ野郎!んなこと、言ってんじゃねえ!」 柊の方は必死に言い返す。 「ずっと…気にしてたんだよ」 晶の脳裏に映るのは、ファー・ジ・アースでの最後の任務の想い出。 自らの未熟さゆえに目の前の男に迷惑をかけたこと。 「んなの、気にしてねえよ!仲間だろ!?」 柊は叫ぶ。 「仲間…はは、柊くんらしいや。ちょっと、残念」 それまでの、ウィザードにとっての常識が変わるとき、ウィザードはその新たな常識に適応するよう自らを変える。 「待っててアキラ!今、回復を…」 リルカは必死の形相でクレストグラフに再び魔力を込め始める。 だが、それに対し、晶はよわよわしい笑顔のままかぶりをふって、言った。 「ううん。いらない。こうなっちゃったら、もう、回復魔法、効かないから…」 「そんなの、やってみなくちゃ分かんないよ!」 リルカは、泣きそうになりながら反論する。 「回復は、私よりもアシュレーさんやブラッドさんに…」 「そんな…だって…!」 その言葉はまるで、生きることを諦めたようにリルカには聞こえた。 それは、魔剣使い、七瀬晶にとっても例外では無い。 「あれ?みんな…どうしたの?まるで私が死ぬみたいな顔しちゃって…」 周りの様子を見て、晶は首をかしげる。 「アキラ…」 アシュレーは思い出す。自警団時代、致命傷を負って朦朧とした仲間の隊員がこんな顔をしていた、と。 「クソッ…!俺には、守ることは、できないのか…!?」 七瀬晶もまた、新たな常識に適応していた。異世界、ミッドガルドの常識に。 「ああ、そっか。みんなは、知らないんだっけ。私が、大丈夫だってこと…」 「…どういうことだ?」 晶のつぶやきにブラッドは冷静に問い返す。晶とのつきあいが長いわけではないが、大体の性格は把握している。 命がけで仲間をかばった後、あっさり死を受け入れるような人間では無い、そう、知っている。 『私ならもし食らっても、大丈夫だから』 晶は、おとりを買って出たとき、そう言ってはいなかったか? 「こういうこと、戦ってるとよくあるんです。だから、私はまだ戦える」 にこやかに笑みを浮かべ、晶はブラッドに言う。 「よくある…ああッ!?」 柊はようやく思い至る。晶の、言っていることに。 過去の自らの記憶、ミッドガルドでの戦いの記憶に。 「行くよ…」 晶が1つ、息を吸い込んだ。 ミッドガルドにおいて、異能の力をふるう力を持つ七瀬晶。運命の“加護”を受けた彼女は今やウィザードであると同時に… 「…ブレイクッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」 クエスターなのだ。 晶の魔剣から、大量のプラーナが流れ込む。プラーナはみるみるうちに晶の傷を癒し、再び立ち上がる力を与える。 少しよろけながらもしっかりとした足取りで、晶は立ち上がる。 「くっ…そんな隠し技、魔剣使いのあなたにあるなんて…」 また、想定外の出来事。ベアトリーチェの顔がわずかに歪む。 あのとき、データベースからウィザードの基礎情報を得ている。 それゆえに死から復活する技は魔剣使いには無いことを知っていた。 「あなた、勇者にでもなっていたと言うの?」 当てはまりそうな事項をベアトリーチェは晶へと聞く。だが、それに晶は笑って首をふる。 「あはは。残念。これは魔剣使いの、ううんウィザードの技じゃない」 それは、ベアトリーチェの誤算。 主8界以外にも、世界があること、そしてその世界、ミッドガルドのクエスターの情報。 それは、魔術協会データベースにすら記載されていない。ウィザードの常識すら乱しかねないが故に。 「ようやく分かった。何で、私がこの世界に呼ばれたのか」 あの猫は言っていなかったか?この世界に自分を呼んだのは『あれの使い手』だと。 「アシュレーさん!剣を、アガートラームを抜いてください!」 「アガートラームを?どういうことだ?」 「いいから早く!」 「わ、分かった!」 晶に気圧されるようにアシュレーはアガートラームを抜く。 「この世界で、私がやるべきこと、私じゃないと、できないこと…」 晶の魔剣の宝玉が、静かに青い輝きを放ち始める。 シャード。運命の加護を受けた、クエスターの証であるそれは、持ち主に様々な加護を与える。 「…アガートラーム、思い出して。この世界の想い出を。あなたの使い手、ファルガイアの魔剣使いの想い出を」 そして異世界よりの来訪者であるクエスターに与えられる加護は… 「―――ガイア。願う奇跡は…アナスタシアさん、力を、借して!」 …小さな奇跡をおこすこと。 晶の言葉と共にアガートラームが覚醒する。 自らに宿る想い出、それを通じ、その人の意思を伝えるために。 (ようやく、私のこと呼んでくれたのね。お姉さん、待ちくたびれちゃったわ) アシュレーの頭の中で声がする。やさしい、女性の声。 「アナスタシア…?」 アシュレーは彼女の声を一度だけ、聞いたことがある。あの世界、事象の地平で出会ったときに。 (アシュレーくん、久し振り。さっそくで悪いんだけど、一緒に、戦ってくれる?) そのときの想い出のままにアナスタシアは軽い調子でお願いをする。 「ああ、俺でよければ、いくらでも力を貸すよ」 アシュレーにも今なら、分かる。彼女は『剣の聖女』というおとぎ話の英雄なんかじゃない。 ただ、誰よりもファルガイアを愛し、守ろうとするだけの、普通の女性だと。 (うんうん。それでこそ、アシュレーくん。じゃあ、頼んだわね) その言葉と共に、アシュレーの中に強い力が流れ込んでくる。 荒ぶる魔神のそれとは違う、やさしさに満ちた、包み込むような力。 それはアシュレーの中で静かに脈うっている。 「ああ…分かっている」 アシュレーは、それを自我の鎖から解き放つ。一体化するために。 自らを真のアガートラームの使い手とせんがために。 その、力を解き放つ魔法の呪文を呟いた。 「―――アクセス」 青く、長い髪、純白の鎧。そしてその手に握られたアガートラーム。 アシュレーの姿が変わる。伝説に残る、その姿のままに。 「その姿…そう、あなたが新しい『剣の英雄』と言うわけね」 ベアトリーチェもまたアガートラームを構える。そして不敵に嗤って、言った。 「あなたを殺せば、アガートラームの使い手はいなくなる。まずは、あなたから、殺してあげるわ」 再び神速の一撃でもってベアトリーチェは迫る。だがそれは阻まれた。 「…あなたたちには、もう用は無いの。邪魔をしないで」 「あなたの相手は、私たちよ!」 2人の魔剣使いの手によって。 「次から、次へと…しつこい男は嫌われるわよ?」 「うるせえ!後衛に簡単に近づかせる前衛がいるか!」 ベアトリーチェの言葉に柊は反論する。 「アシュレー!こいつは俺らで抑える!とどめは任せるぜ!」 「ああ!分かった!」 アシュレーはそこから動かず、精神を集中する。 力を溜めるため、アガートラームの最大の一撃を放つために! 「邪魔をするのね…だったらあなたから死になさい!」 速さと重さを兼ね備えた一撃で、ベアトリーチェは今度こそ晶を倒しにかかる。 考えうる限りの完璧な一撃。これをかわす術は、晶には無い。 「…ヘイムダル!」 そう、奇跡でも起こらない限りは! 「…かわされた!?」 晶の姿が瞬間的にかき消える。そして、ベアトリーチェの一撃は空を切る。 晶に攻撃をかわされたことでベアトリーチェの体勢が崩れる。 「いっけえええええええ!!!!!!!!!!!!!」 その瞬間を見逃さず、晶の剣がベアトリーチェの左肩を切り裂く。 そして、ベアトリーチェはアガートラームから左手を外してしまう。 「うおりゃああああああ!!!!!!!!!!!!!」 柊の剣がアガートラームと衝突する。そして… 「みんな!受け取って!ミスティック…フォースキャロット!」 アイテムに宿る力を引き出すリルカのミスティックによって、全員のプラーナが限界まで回復する。 「ロックオンプラス…」 ブラッドは正確に狙いを定める。その狙いは… 「リボルバーカノン!」 柊の魔剣の刃! 「こいつで、終わりだああああああ!!!!!!!!!!!!」 柊の魔剣に弾丸がぶつかったことで瞬間的に爆発的な勢いがつく。 そしてついに押し負け、ベアトリーチェのアガートラームは弾き飛ばされた! 「…ベアトリーチェ、てめえの敗因は2つだ」 柊が言う。 「てめえは、晶の、クエスターの力を知らなかった、それがひとつ」 晶が後を引き継ぐ。 「もう一つは…」 最後は2人で。 だッッッッッッッ!!!!!!!!!」 「「魔剣使いに剣で勝負を挑んだこと よッッッッッッッ!!!!!!!!!」 「今だ終わらせろ!アシュレー!」 「今です、アシュレーさん!」 「ああ、行くぞベアトリーチェ!」 2人の言葉に答えアシュレーはアガートラームを構える。すべてを終わらせるために。 「い、いや…」 ベアトリーチェは顔を白くして呟く。これから起こることを察して。 「消えるのは…いやあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」 「…アアアアアアアアアアアアアアアアアクウウウウウウウウウウインパルスッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」 ベアトリーチェの絶叫と共に、アシュレーは最後の一撃を放った。 それは吸い込まれるようにベアトリーチェの肉体をとらえた! 「…なんてね。20年間ずっと続けてきただけあって、なかなかの演技だと思わない?」 ベアトリーチェは嘲笑う。その結果に。 「馬鹿なッ!?アークインパルスが効かないだとッ!?」 アシュレーが驚愕の表情を浮かべる。 アークインパルスは、確かに発動した。その一撃は確かにベアトリーチェに深手を負わせた。 だが、足りない。アークインパルスを受けてなお、ベアトリーチェは倒れなかった。 アシュレーの表情を見てベアトリーチェは更に笑みを深める。 「いいえ。効かないわけじゃないわ。ただ、私を消滅させるには、出力が足りなかっただけ」 「なっ…どういう事だ!?」 ベアトリーチェの言葉にアシュレーが聞き返した。 ベアトリーチェはいたずらがうまくいった子供のような顔で言う。 「私が、魔神をも滅ぼす攻撃を、警戒してないとでも思ったのかしら? あの赤い月は、あなたたち以外にとっては、ごく普通の“常識” 変なことも、悪いことも、何も起こっていない。 世界は今、とっても平和。2年前のあの日から、ね。 そんな平和な世界で、他の人間が、グラブ・ル・ガブルで戦うあなたたちに気づくと思う? 心をひとつに、できると思う? あの時のように、心がつながると思う? みんなの心を束ねて力を発揮するアガートラームが、真の力を発揮できると思う!? …そう、あなたたちの負けは、あの赤い月が昇ったその時に、決まっていたのよ…」 そして、ベアトリーチェは笑った。アシュレーの絶望に歪む顔を見て、くすくすと、くすくすと… ← Prev Next →
https://w.atwiki.jp/kageyama718/pages/13.html
test
https://w.atwiki.jp/emission/pages/11.html
ウィザード(Wizard) ウィザードは強力な魔法を操るクラスです。 相手の防御力をものともしない念力系攻撃魔法と、相手を撹乱させる幻術系の補助魔法を使うことが出来ます。また、ゲーム中で最も早く詠唱できることも大きな特徴です。 ウィザードは多人数を相手にした攻撃が得意です。また、モンスタに弱体化の魔法をかけて状況を有利に進めることもできます。 〓 初期 HP/MP HP MP 83 300 〓 初期能力値 筋力 敏捷 体力 技術 知能 権威 3 5 4 4 7 7 〓 初期属性抵抗 火炎 凍結 電撃 状態 5 5 5 12 〓 初期戦闘能力 攻撃等級 1 命中率 100 攻撃力 36 回避率 0 防御等級 0 攻撃速度 2360 防御力 0 ガード 0 〓 ウィザード使用可能スタンス ロッド スタッフ 黙示の杖 サイコキネシス サイコキネシス サイコキネシス ESP イリュージョニスト イリュージョニスト レビテーション レビテーション ESP レビテーション
https://w.atwiki.jp/seventhdark/pages/129.html
職業説明 ウィザード ウィザードは自然界に存在するエレメントを操る魔法使い。象徴とも言える杖を操り、吹雪や雷をはじめとした様々な魔法を巻き起こすことができる。 アルカナ より強力な魔術を極めたウィザードに与えられる冠名。圧倒的な魔術は立ちはだかる敵を一掃する。 アークサモナー 外法を極め、闇を従えることが可能になったウィザードに与えられる冠名。使い魔を使役し、闇の力で敵を侵略する。 ワルプルギス 人の身で神にも及ぶマナをその身に宿した魔導師。あらゆる元素を自在に操り、強力な魔法を放つ。 アビスキャスター 外典の中でも特に危険な禁書を紐解いた禁忌の召喚師。操る地獄の軍勢を自身に憑依させる術を得た。 ※スキルレベルを上げるためにはスキルブックが必要となります。 ウィザード ウィルサンダー 取得Lv:4 消費SP:なし CT:20.0秒 説明 雷の魔力元素で盾を形成すると共に、周囲の敵に稲妻を落とす。 級 アイコン 効果 初級 5204ポイントのシールドを付加し、2秒毎に周囲の敵に134%の自然属性ダメージを与え、1秒間「拘束」状態にする18秒 中級 上級 奥伝 アークメイジ テレポート 取得Lv:12 消費SP:なし CT:25.0秒 説明 一瞬のうちに指定場所まで移動する時空間転移魔法。 級 アイコン 効果 初級 指定場所に向かって瞬間移動する 中級 上級 奥伝 アイスサークル 取得Lv:12 消費SP:なし CT:12.0秒 説明 絶対零度の空間を作り出し、空間内の敵を凍結させる。 級 アイコン 効果 初級 67%の氷属性ダメージ移動速度を10%減少させ、一定確率で2秒間「凍結」状態にし、自然属性耐性を30%減少させる0.3秒ごとに範囲内の敵にダメージを与える。6秒間持続 中級 80%の氷属性ダメージ移動速度を12%減少させ、一定確率で2秒間「凍結」状態にし、自然属性耐性を30%減少させる0.3秒ごとに範囲内の敵にダメージを与える。6秒間持続 上級 奥伝 トルネード 取得Lv:20 消費SP:なし CT:20.0秒 説明 大気中の風の魔力元素を操り、強力な竜巻を発生させる。 級 アイコン 効果 初級 竜巻を召喚し、経路上の敵にダメージを与え続ける12秒 中級 上級 奥伝 オーバーマギア 取得Lv:30 消費SP:なし CT:60.0秒 説明 己の深淵に眠る魔力の根源を解放することで、あらゆる魔法の行使を可能とする。 級 アイコン 効果 初級 すべてのスキルのSP消費量を100%減少させる10秒 中級 上級 奥伝 パッシブスキル(詳細はパッシブスキルページに) アイコン スキル名 効果 ロッド熟練Lv1 ロッドによるスキルダメージを5%増加 バトルボウ熟練Lv1 バトルボウによるスキルダメージを5%増加 アルカナ サドンイグニス 取得Lv:45 消費SP:なし CT:20.0秒 説明 火と地の魔力元素を操り、大地から強力な火柱を発生させる。 級 アイコン 効果 初級 247%の火属性ダメージ「燃焼」状態にし、25%の火属性ダメージを与え続ける6秒一定確率で「スタン」状態にする3秒短時間に連続で発動でき、5秒間未使用または3回使用後クールタイムが発生する 中級 上級 奥伝 マインドフリーズ 取得Lv:40 消費SP:なし CT:18.0秒 説明 冷気を纏ったドームを展開し、触れた者を弱体化させる。 級 アイコン 効果 初級 507%の氷属性ダメージ全魔法耐性を20%減少させる8秒 中級 608%の氷属性ダメージ全魔法耐性を25%減少させる8秒 上級 奥伝 スターリングフレア 取得Lv:45 消費SP:なし CT:30.0秒 説明 燃える星環を召喚し、触れた敵を焼き尽くす。 級 アイコン 効果 初級 76%の火属性ダメージ6秒間、0.5秒毎に範囲内の敵にダメージを与える 中級 上級 奥伝 グラビティコア 取得Lv:50 消費SP:なし CT:45.0秒 説明 強大な魔力の波動で重力の核を形成し、敵を引きずり込み、圧縮する。 級 アイコン 効果 初級 106%の闇属性ダメージ範囲内の敵を指定場所まで引き付ける6秒間、0.5秒毎に範囲内の敵にダメージを与える 中級 上級 奥伝 取得Lv:55 消費SP:なし CT:120.0秒 説明 全ての生命の活動を停止させる氷神の魔力を用いて引き起こす古の大魔法。 級 アイコン 効果 初級 104%の氷属性ダメージ「絶対零度」状態にし、移動速度を10%減少させる。最大スタック10「絶対零度」状態が10回までスタックすると追加で「零度凍結」状態になり、全魔法耐性を10%減少させる6秒0.3秒ごとに範囲内の敵にダメージを与える。6秒間持続 中級 125%の氷属性ダメージ「絶対零度」状態にし、移動速度を10%減少させる。最大スタック10「絶対零度」状態が10回までスタックすると追加で「零度凍結」状態になり、全魔法耐性を20%減少させる6秒0.3秒ごとに範囲内の敵にダメージを与える。6秒間持続 上級 奥伝 パッシブスキル(詳細はパッシブスキルページに) アイコン スキル名 効果 ロッド熟練Lv2 ロッドによるスキルダメージを10%増加 アークサモナー パッシブスキル(詳細はパッシブスキルページに) アイコン スキル名 効果 ロッド熟練Lv2 ロッドによるスキルダメージを10%増加 ワルプルギス アビスキャスター 名前
https://w.atwiki.jp/nwxss/pages/82.html
──アンゼロット宮殿、バルコニー。碧く輝く美しい星を一望できる特等席では、お茶会が開かれていた。 「…今日の紅茶もいい煎れ具合です」 丸いテーブルを囲むのは、この城の主アンゼロット。側に控えていた赤い騎士は何やら誇らしげだ。 「はわ~、このチーズレモンカスタードチーズシフォンパイおいし~」 チーズ(中略)シフォンパイを幸せそうに摘む赤羽くれは。 「……マフィンも美味しい…」 ペットのどんぺりと戯れるのは緋室灯。 ──そして…、 「皆さん、たくさんあるのでゆっくり食べてくださいね」 紫色の制服もすっかり着なれた志宝エリスだった。 シャイマールの力を失った彼女であったが、その調理スキルは未だ健在のようである。 と、このお茶会に参加する者がもう一人。 「ぜー、はー…や、やっと戻ってこれたぜ…」 息も絶え絶えで現れたのは、言わずと知れた下がる男、柊蓮司。どうやら"エミュレイター"と戦っていたようだ。 「あら、柊さん、ずいぶん遅かったですわね」 「お疲れー、ひーらぎー」 「柊蓮司…今日も遅刻……情けない」 「柊さんお帰りなさい。お菓子をどうぞ」 「お前ら、それが苦労して帰ってきた奴に対する態度か!?──エリスありがとな」 「い、いえ」 よほど疲れていたのだろう、柊はエリスから渡されたお菓子にかぶりつく。 「…柊さん、少々お行儀が悪いですよ?」 「ほっとけ」 そんな柊に、アンゼロット以下、女性陣はみんなして苦笑だ。 「こほん」 そんな空気を変えるようにアンゼロットが咳払いをした。 「柊さんもいらした事ですし、そろそろ本題に入りましょう」 と言って手にしたカップを置く。 「任務の話、だね」 さすがは歴戦のウィザード達。皆、即座に神妙な面もちとなった。 「今回の任務は、"高次元物質化能力者"の養成機関である風華学園への潜入調査です」 聞き慣れない単語に柊が首を傾げた。 「高次…何だって?」 「"高次元物質化能力者"──"媛星"という…有り体に言えば古代神の落とし子で、マジカルウォーフェア中に覚醒した"媛星"を倒すために尽力した方々です」 「そんな事件…あったっけか?」 「あったんです!」 強く言い放つアンゼロット。その気迫に圧されて柊は返す言葉もないようだ。 「……え、えーと、その人達って確か、あかりんがこの前の事件で会った人たちだよね?」 「ええ…一緒に"秘密侯爵"リオン=グンタと戦ったわ。…倒せなかったけど…」 灯の言葉には僅かだが悔しさを感じさせる。 普段から感情を出さない彼女がこうなのだから、逃がしたのがよっぽど悔しいらしい。 「で、その風華学園がどうしたんだ?」 「周辺で低級エミュレーターの活動が確認されているのです。今のところは大した被害は出ていませんが、捨て置くわけにはいきません」 「…魔王が関わっているかも知れないから?」 「その通り。ですから風華学園の二年生として潜入し、原因を調査していただきます」 「はわっ、二年生?じゃあ、あたしたちも柊と一緒で下がるのか~」 「下がるって言うなよっ!?…潜入か…」 学校に潜入と聞いた柊は何やらそわそわしている。 「…柊蓮司、なんだか嬉しそう…」 「う、嬉しいわけねーだろ!もう俺は高校を卒業してるんだからな!」 口先ではこう言っているが、柊の口元は緩んでいる。きっとあまりに授業に行かせて貰えなかった反動で、学校大好き人間になってしまったのかもしれない。 何やらしたり顔のアンゼロット。 「…皆さん何か勘違いされてるようですが、今回潜入するのはエリスさんだけですよ?」 「そうそうエリスちゃんが……って、はわっ!?エリスちゃんが?」 「エリス…?」 くれはと灯の視線を受けたエリスは無言で笑顔を返した。 「ちょっと待て、ウィザードでもないエリスを、そんな所に送り込むのは危険じゃないのか?」 「いいえ、今のエリスさんはウィザードですよ。先日の一件で、どうやら"志宝エリス"としての力が目覚めたようなのです」 「はい、アンゼロットさんの元でバッチリ勉強しました!」 はきはきと言うエリス。 その瞳には強い決意の色が見て取れた。そんなエリスの様子にくれはと灯は嬉しそうだ。 「でも、エリスだけじゃ大変じゃないか?新米みたいなものだし…」 ひとり、尚も食らいつく柊。よっぽどエリスの事が心配なのだろう。 「それはご心配なく。現地に手練れのウィザードを派遣しています。それに後ほど柊さんと合流していただきますから」 「そうか、それなら安心……後ほど?」 「ええ、後ほど」 と、言って手のひらサイズの赤いスイッチを取り出した。 「…あ、アンゼロット?それはいったい何だ?」 脂汗を額に浮かべて青ざめるのは通称"下がる男"。 「これですか?これは、柊さんの足下に穴を開けるためのスイッチですよ?」 純真無垢に見えるとびきりの笑顔で見返すのは"世界の守護者"。 「柊さん、私の事なら大丈夫ですから、安心して任務がんばってきてくださいね」 ついでにとびきりの笑顔を送る元"裏界帝国皇帝"。 残った"星の巫女"と"紅き月の巫女"は我関せずといった風で残ったお菓子を口に運ぶ。 「ままま、待てっ!まさかそれを押す気じゃないだろうなっ!?」 椅子からずり落ち後ずさる"下がる男"。 「まっさかー☆…ぽちっとな♪」 ──ガコン。 "下がる男"柊蓮司の足下に開いたのは虚空の奈落。 「やっぱりかぁぁっ!?ぁぁァアンゼロットォォぉぉぉぉぉぉーーーっっっっ!!!!」 叫びながら落ちる柊蓮司。 アンゼロットはどこから持ち出した拡声器で、落ちる柊に呼びかけた。 「ひーらぎさぁーん!!エリスさんの事はこちらに任せて、任務に専念してくださいねーーーっっ!?」 「ちっくしょぉぉぉーーーーーっっっ!?」 徐々に遠ざかっていく声。 「はわーお約束だねぇ」 「…さすが柊蓮司、下がる男は健在……」 柊蓮司、あんまりな言われようである。 「さて、エリスさん」 「はい」 奈落から向き直ったアンゼロットはエリスに告げる。 その表情は真剣だ。 「現地の戦力は豊富ですし、任務としてはさほど難しいものにはならないでしょう…しかし、油断は禁物です」 「わかってます、アンゼロットさんの教えはしっかり守ります」 「よろしい。ふふっ、いい教え子を持ってわたくしは幸せ者ですわ」 エリスの答えにアンゼロットはほほえんだ。 「一緒に行けないけど…応援、してるから……気をつけて」 灯の表情は複雑だった。 やはりエリスを送り出すのは心配なのだろう。 「エリスちゃん、頑張って!何かあったらあたしとあかりんがすぐに駆けつけるからね」 逆にくれはは元気いっぱい。我が子の初登校を送り出す母親の心境、といったところか。 「灯ちゃん、くれはさん…ありがとう!──それじゃあ行ってきます!」 ──こうして、"ウィザード"志宝エリスの、本当の意味での初任務が始まったのだった── ← Prev Next →
https://w.atwiki.jp/2008boctour/
ここは、2008 BUMP OF CHICKEN TOUR ホームシック シップ衛星 まとめwikiです。 このページは自由に編集することができます。 主に2chのbump本スレで報告された、セットリスト ライブ報告で構成されています。 管理人は昼間不在のため、出来る方は編集お願いします。 下の方にコメントフォームがあります。ご意見等ございましたらお願いします。 関連 ●現行スレ BUMP OF CHICKEN 408 ●過去スレ BUMP OF CHICKEN 407 BUMP OF CHICKEN 406 BUMP OF CHICKEN 405 BUMP OF CHICKEN 401 BUMP OF CHICKEN 401 BUMP OF CHICKEN 400 BUMP OF CHICKEN 399 BUMP OF CHICKEN 398 BUMP OF CHICKEN 397 BUMP OF CHICKEN 396 BUMP OF CHICKEN 394 BUMP OF CHICKEN 393 BUMP OF CHICKEN 392 BUMP OF CHICKEN 391 BUMP OF CHICKEN 390 BUMP OF CHICKEN 389 BUMP OF CHICKEN 388 BUMP OF CHICKEN 387 BUMP OF CHICKEN 386 ★公式 http //www.bumpofchicken.com/ ホームシック衛星 1/10(木) 東京 ZEPP TOKYO 1/11(金) 東京 ZEPP TOKYO 1/14(月) 帯広 メガストーン 1/15(火) 旭川 カジノドライブ 1/18(金) 青森 クォーター 1/19(土) 秋田 クラブスィンドル 1/21(月) 盛岡 クラブチェンジウェーブ 1/22(火) 郡山 ヒップショットJAPAN 1/24(木) 富山 クラブマイロ 1/25(金) 福井 響のホール 1/27(日) 京都 KBSホール 1/28(月) 京都 KBSホール 1/30(水) 松山 コミュニティーセンター キャメリアホール 1/31(木) 高知 ベイファイブスクエア 2/2(土) 岡山 クレイジーママ キングダム 2/3(日) 米子 ベリエ 2/6(水) 鹿児島 キャパルボホール 2/7(木) 熊本 バトルステージ 2/9(土) 大分 トップス 2/10(日) 長崎 ncc スタジオ 2/12(火) 名古屋 ZEPP NAGOYA 2/13(水) 岐阜 クラブ-G ホームシップ衛星 2/23(土) 千葉 幕張メッセ国際展示場ホール9・10・11 2/24(日) 千葉 幕張メッセ国際展示場ホール9・10・11 3/6(木) 大阪 大阪城ホール 3/7(金) 大阪 大阪城ホール 3/17(月) 名古屋 日本ガイシホール 3/18(火) 名古屋 日本ガイシホール 3/22(土) 仙台 ホットハウススーパーアリーナ(グランディ・21) 4/5(土) 金沢 石川県産業展示館4号館 4/12(土) 新潟 朱鷺メッセ 4/19(土) 札幌 北海道立総合体育センター きたえーる 4/29(火) 広島 グリーンアリーナ 5/5(月) 福岡 マリンメッセ 5/6(火) 福岡 マリンメッセ 5/10(土) 静岡 エコパ・アリーナ ホームシップ衛星 追加公演 5/17日(土) 埼玉 さいたまスーパーアリーナ 5/18日(日) 埼玉 さいたまスーパーアリーナ 5/30(金) 大阪 大阪城ホール 5/31(土) 大阪 大阪城ホール 7/5(土) 沖縄 宜野湾海浜公園野外劇場 お知らせ ご意見等ございましたら、お願いします。 ページが見れないorz -- 名無しさん (2008-03-07 20 04 13) 自分も見られません(´・ω・`)@携帯 -- 名無しさん (2008-03-08 03 31 48) 更新履歴からだったら見れるみたいですね -- 名無しさん (2008-03-08 03 34 26) すんまそん。直しますた。これで大丈夫かな? -- 編集者 非ログインユーザ (2008-03-08 13 53 46) 4月12日新潟が札幌になってる -- ☆ (2008-04-15 16 43 26) 新潟がないのは何故? -- 名無しさん (2008-04-20 12 35 45) 松山のセトリちがう。ギルド無しでプラネタリウム有りです。 -- ななし (2008-05-01 01 01 40) 新潟は? -- 名無しさん (2008-05-08 11 17 23) 新潟が札幌になってるの直して欲しい -- 名無しさん (2008-05-10 23 59 31) 広島のライブのもまとめて欲しいです。 -- 名無しさん (2008-05-17 01 18 40) 追加の城ホ1日目まとめていただきたいです! -- 名無しさん (2008-06-01 17 15 09) 新潟はどこへ? -- 名無しさん (2009-09-21 19 03 31) 名前 コメント ちなみに、管理人はZepp Tokyo初日・大分・新潟・幕張1日目参戦予定です。 @wikiヘルプなど まずはこちらをご覧ください。@wikiの基本操作 用途別のオススメ機能紹介 @wikiの設定/管理 その他にもいろいろな機能満載!!@wikiプラグイン @wiki便利ツール @wiki構文 @wikiプラグイン一覧 分からないことは?@wiki ご利用ガイド よくある質問 @wiki更新情報 @wikiへお問い合わせ 等をご活用ください http //atpages.jp/
https://w.atwiki.jp/night2ndandante/pages/54.html
Scene1 多数決は数の暴力 まるで意味がわからんぞ! 僕は荒ぶる太平洋に向かってそう叫びたい(冷静に考えればこっちの世界に居る以上無理でしたね)。 先日無理矢理冥界門を開ける手伝いに行かされたんですがね、 いざ門が開いてみるとウィザード勢と侵魔勢の連携が全く取れず、 門を開けたことによる更なる冥魔の侵攻と相俟ってシティの危機はますます深刻化しました。 何て計画性のない門の開放なんですかね・・・。 連携基盤が脆弱なままろくに改善策を立てずに焦って門なんか開くからこうなるんですよ。 エイミー曰く「門を開けるのは確かに早過ぎた。しかしもう賽は投げられた」らしいですが 賽を投げつけられる側の身にもなって欲しいですよね・・・。 はてさて、回想の場面を僕が住んでる宮殿の会議室前に移しましょう。 扉を開けるとそこには何人かの魔王とウィザードが巨大な白い円卓についていたんです。 何でもウィザードと侵魔の代表者が集まって打開策を練るんだとか。 計画性の無さが生んだ尻拭いに僕を巻き込むなよ・・・。 その中にはパイレーツせーなちゃんと鉄壁絶壁千羽矢ちゃん、そして平太の姿も見えました。 今一人選の基準がわかりませんね、ハイ。 軽く会釈して僕も席についたら程なくして2人の女性が僕に近づいて声をかけてきたんです。 1人ずつ紹介していきましょう。 最初に声をかけてきたのは長く伸ばした青い髪と巫女服が目を引く赤羽くれはちゃん。 肌のハリとツヤから察するに年は18前後でしょうか。活き活きとした雰囲気が伝わってくる活発そうな女の子です。 巫女服に阻まれて僕のイーグルアイを持ってしても目測をすることは叶いませんでした。 古来から日本に伝わる服は体のラインが目立たないですね。だがそこが良いのだよ。 そんな状況下でも慎ましく主張してくる胸とか趣があると思いません? 話は更に逸れますが高校生と大学生って肌年齢に相当な差があるんですよ。 高校時代にオープンキャンパスで大学を訪れたとき大学生のお肌を見て老けてると内心ほくそ笑んだ5年前。 今では僕が老けてるサイドですね。いやはや、年は取りたくないものです。 特に用はなかったけどとりあえず挨拶しておきたかったとの事。 ここで大変なことが起こったんですよ・・・。 くれはちゃんが挨拶と同時に物凄くナチュラルな感じで手を差し出してきたんです。 こ・・・これは!日本においてはもはや神話の中でしか存在し得ないと思っていた伝説の儀式・・・「初対面でのA☆KU☆SHU With Girl」なのか!? ククク・・・笑うな、ここでニヤけたらクールなナイスガイ(自称)で通してきた僕のイメージが・・・ とか馬鹿な事考えながらくれはちゃんのおててを握ったんです。 ンギモッヂイィ... これが・・・リア充しか味わうことのできない神域! 衛生班!衛生班を呼べ!このままではぼかぁ・・・ぼかぁ! とか1人舞い上がってたら突然どこからか人を殺せそうな鋭い視線を感じましたんです。 視線の主を探してきょろきょろしてると今度はくれはちゃんの隣に居た女性が話しかけてきました。 名前は伊東真澄さん。ナース服にも見える白衣とAV女優みたいな赤フレームの眼鏡が扇情的で優しそうなお姉さんです。 そう言えば以前変な夢を見ましてね、伊東さんにそっくりな女性がうす気味悪い野郎に巧妙な手口で間接的に死に追いやられたんですよ。 そしてそのうす気味悪い野郎が仮面と全身黒服に身を包んだ見るからに怪しい二刀流のちっこいのにナイフで首をチョメチョメされて 最後は以前森で見た瘴気?でしたっけ。それに呑まれて跡形もなく消えたんです。 いやぁ、妙に生々しい夢で怖かったですね。 まあそんな事はどうでもいいです。 どうやら彼女はシティで診療所を開いているみたいです。薬の調剤もしていて僕の胃薬の発注元も彼女のところらしいです。 具合悪くなったらいつでも来てくださいと言われました。行く準備もイク準備もいつでも万端です。 そんなことを考えてたらまた先ほどの鋭い視線を感じました。 注意して周りを見てみると視線の主は結構離れた位置に座ってるセーラー服を着た犬耳ロリっ子少女ですた。 えっと・・・何でそんな視線を浴びせられなくちゃいけないのかわからないのですが・・・。 さてさて、巫女巫女ナースコンビと挨拶もほどほどに会議の始まるのを待ってたんですよ。 すると無駄に豪華な金の装飾が施された入り口の扉がゆっくりと開きましてね、 「会合の場所って言うのは、ここでいいのかしら?」 と、目からビームを出せる美人巨乳未来人みたいな声で見た目中学生くらいの少女が入ってきました。 学生服にポンチョと言う謎スタイル。前衛的過ぎるだろ・・・。 彼女は確か蝿の女王の異名を持つ魔王であることは資料で読んだ事があるんですよ。 ただ如何せん名前が思い出せません>< しかしながら向こうは僕を知ってたらしく絡まれてしまいますた。 いつから僕はこんなに有名になったのでしょうか。全く見に覚えがないのですが・・・。 てかたまにありません?向こうはこっちの名前知ってるけど自分は相手の名前知らなくて 会話が妙にフワフワしてしまう事って。え、ない?^^; 名前を思い出せずに苦笑いを浮かべていると何故だか脳裏に例の夢に出てきた仮面野郎がふとよぎりました。 詳しい事情は知りませんが奴も色々苦労してるんでしょうね。ま、せいぜい頑張ってくれとしか言えませんが。 あ、こっちの話です。 その後も続々と参加者が集まり、ついに巨大な円卓の席が完全に埋まりました。 さてさて、いよいよ会議が始まりそうな雰囲気が漂い始めた時です。不意にエイミーが言ったんです。 「祐一様、出席者はこれで全員ですわ」 えっ? うん、そうだね。僕に何をしろと。 普通そう思いますよね?だから僕は答えました。 僕「そうだね。始まるのを待とうか」 するとですね・・・。 エ「・・・えっ?」 僕「えっ?(キョトン顔」 何この空気。何なのこの間。何なんだこの出席者全員が僕に向ける冷ややかな視線はぁ! そう思ってるとエイミーがこそっと耳元で囁いたんです。 「祐一様、ここは祐一様の宮殿ゆえ・・・開会の宣言も、祐一様にやっていただく必要があるのですが・・・」 だからさ、毎回こういうことは事前にわかるように説明しろっつってんだろ・・・。 てか主催者がやれよ・・・。そもそも誰なのか知りませんが。 まあ耳と首筋にかかったエイミーの吐息と彼女の良い匂いが実に官能的だったので良しとしましょう。 ふと冷静に周りを見渡すと朝比奈ポンチョさんは僕をみて2828しております。 巫女巫女ナースコンビの巫女の方は苦笑いを浮かべていてナースの方は必死に笑いを噛み殺しておりますた。 ガッデム! ククク、良いだろう。見せてやる。 かつて中学時代全校生徒へ向けての挨拶で何の原稿も考えずに壇上に登った僕の真の実力をな! 「えー、本日はお忙しい中お集まり頂きありがとうございました。迫り来る冥魔の脅威に対抗すべく有意義な会になることを願いつつ、開会宣言とさせて頂きます」 我ながらエクセレンンツッッッ! すると控えめな、本当に控えめな、千羽矢ちゃんのパイオツくらい控えめな(失礼)拍手が起きました。 これだよ、この空気。大学の新歓の自己紹介でボケたら盛大に滑ったときの何ともいえないそれに近かったっすね・・・。 はい、てな感じでウィザードサイドと侵魔サイドの話し合いが始まったわけです。 結論から言いましょう。両陣営の話は平行線をたどって一向にまとまる気配がありませんでした。 以下、侵魔サイドの言い訳 朝比奈ポンチョさん「私達だって眷属全員の行動を把握しているわけじゃないのよ。お腹がすいたらそりゃプラーナだって欲しくなるわ」 何気に恐ろしいこと言ってますね・・・。 続いてウィザードサイドの反論 名前忘れた「それは分かっているつもりだけど、だからって味方から奪うのは違うと思うよ」 同盟組んだのに突然襲われたらたまった物じゃないですよね。 襲うのはベッドの上だけにして欲しいものです。 そんなこんなで5時間ほどお互い平行線を爆走してたんです。 ムードは険悪になるわケータイ弄る奴(巫女巫女ナースのナースの方)がいるわ寝てる奴(パイレーツと猫)がいるわ それはもうグッダグダでピッリピリですた。 見かねてエイミーがまた耳元で囁いたんすよ。会合は後日開きなおす手もあると。 だから何で僕が開くことになってるんだよ・・・。 だがその首筋にかかる吐息ッッッ!圧倒的吐息ッッッ!これはGJと言わざるを得ない。 かくいう僕もあまりの協調性のなさや身勝手さにうんざりしてましてね。・・・まあ僕が言うのも何ですが。 その場を軽く和ませるために以下の言葉を言ったんです。いや、言ってしまったんです。 今思えばあの時なんで黙っていなかったのか、そればかりが悔やまれます。 僕はこういったんです。 「もう体育祭か何かやって仲良くするところから始めればいいんじゃないっすかね。青春友情ドラマの定番っすよ、体育祭」 すると一同がハッとした表情を浮かべて一斉に僕を見やがるんです。 そして方々に広がるざわつき。そしてみんなが口々に言ったんです・・・。 パイレーツ「体育祭かぁ・・・こっちの仕事でロクに学生生活送ってないから私はしたいなぁ」 朝比奈ポンチョさん「面白そうね。興味があるわ」 巫女巫女ナースのナースの方「いいねー、まあ私は保険医として働くことになると思うけど」 名前忘れた「そっかー、まずは親睦を深めないとだめだよね・・・そこに気付くなんてすごいよ、日下君!」 猫「怪我の手当てならまかせろー」 ロリ犬耳「ま、まあ・・・お前がどうしてもやりたい言うんなら、ウチも一肌脱いじゃるけん」 貴様ら・・・正気か・・・。 千羽矢、そこはオロオロしてないで突っ込みを入れて欲しかったです・・・。 でも千羽矢のオロオロ顔とか普段見慣れない表情が新鮮で可愛かったから良しとしましょうwwwwwwwwwwwwww みwwwなwwwぎwwwっwwwて-- こねぇよ・・・。 いや千羽矢のオロオロ顔は良かったよ?寧ろ立ち上がった。 でもね、比較的話の通じる首脳陣+αの話し合いですら平行線なのに体育祭とか本当に成立すると思ってるのかと。 僕は言ったさ「あの・・・冗談ですよ?」と。 巫女「まあ体育祭は良いとして・・・責任者と言うか、その辺はどうするの?」 話聞けよ ナース「そりゃアレでしょー。言い出しっぺの法則、的な?」 Fuck!! 巫女巫女ナースのナースの方が悪戯な笑みを浮かべて僕の方を見やがるんです。 だからこの世界守りたくない笑顔多過ぎだろ・・・。 経験則的な話になるんですがね、僕の直感が叫びました。もう逃げられないと・・・。 僕は無駄と知りつつも精一杯の抗議はしました。 僕「仮にやるとしても僕より権力の強い方が代表者の方が良いと思うのですが・・・」 ナース「って言ってもねー。私たちは運動会とかそういうのにあまり縁が無いしー。ここは運動会を経験してきた若者に任せるべきだと思うなー?」 僕は伊東氏(ナースの方)に何か恨みでも買っているのでしょうか。 さっきからとても嫌らしい笑みを浮かべて僕に責任者を押し付けようとしてきやがります。 ここで僕に非常に、非常に心強い言葉がかけられたんです。 名前忘れた「ま、まあまあ・・・何も日下君一人でやるわけじゃないんだし。私も手伝うから、ね?」 先ほどから「名前忘れた」と記しているこのピンク髪の小柄な女性。 名前を忘れてしまったことを心からお詫び申し上げたい。 かくして運動会の全日程と責任を丸投げされたわけです。 どうしてこうなったの?ねぇ? Scene2 文化祭や体育祭前日の準備期間で妙にはしゃぐ女子とそれを引き立てる野郎の構図が嫌いでした 体育祭の実行委員長を丸投げされた次の日のことです。 僕は宮殿の中庭に立っていました。空は雲一つない快晴です。でも僕の心は一向に晴れる気配がありません。 「止まない雨はない(キリッ」とか言った奴ちょっと出て来いよって感じですよね。 庭には僕の他に実行副委員長を申し出てくれた例の小柄でピンクのショートヘアーが印象的なまるで天使の様な方。 名前忘れましたが・・・。 他にせーなちゃんと猫二匹。 ここらで紹介しておきましょうかね。これまでは猫キャラは平太だけだったのですが今回ここにいる猫は2匹。新キャラですよ皆さん。 名前はエドワード。着ぐるみじゃなくてモノホンです。でも喋ります。 黒に近い紫色をしていています。妙に僕の尻に熱い視線を送ってた気がするのはきっと気のせいです。 手伝ってくれる理由に関しては一々突っ込みませんでした。もう猫の手も借りたい気分だったので。 うまい!今上手い事言いましたよ僕。 モチベーションダダ下がりで無駄に輝いてるお天道様を見上げてると、ふとせーなちゃんが声をかけてきたんです。 「ねぇねぇ。ユー君、剣の稽古してるんだって? 後で私とも稽古しようよ!」 ユー君・・・何てステキな響きなんでしょう。 これが剣の稽古じゃなくて遊園地とか映画館のお誘いだったらッッッちっくせう・・・。 ただでさえ我輩少女に毎日半殺しにされてるのにこれ以上僕をどうするおつもりなのでしょうか。 もうやめて!とっくにU1のライフは0よ! でも目の前でキラキラした笑顔を振りまくこの少女の頼みを断る理由なんてどこにもありません。 断ろうものなら彼女のしゅん・・・とした顔が浮かびます。僕は言いました。 「あ、はい。是非お願いします!」 僕ってやつは・・・ホントにもう・・・バ・・・k・・・ そんな感じで適当に雑談してると庭に少女の声が響いたんです。 「全員揃ったみたいじゃな。ウチがお前ら実行委員の監督をするマルコじゃけん。運動会までよろしく頼むで」 会議の場で僕にバチバチとした視線を浴びせてきた犬耳ロリっ子セーラー服少女ですた。 ここで一つ訂正をさせて頂きたい。 確かに童顔で幼い顔立ちのマルコ(よっしゃ!名前覚えた!)。会議の場では座ってたので背丈がわからず 顔立ちからてっきりロリ属だと思っていたのですが いざ並んでみると背がでかい。僕と同じくらいありそうです。胸も意外とありそうです。 セーラー服から覗く谷間が眩しいです。下着つけてないんですかね? まあロリ巨乳なのは良いとしてその喋り方何だよ・・・。 僕は言ったんです。 「その不良になりたくて失敗した感じの言葉遣いって流行ってるんですかね?」 と。するとどうやら逆鱗に触れたらしく顔を赤くして烈火のごとく反論してきました。 「な、なんじゃとぉ!これは西方裏界弁いう、れっきとした方言じゃけん!」 もう何でもアリだなこの世界・・・。 でもその若干舌足らずな怒り方は妙にツボでした。 塚監督するぐらいならお前が委員長やれよっていう突っ込みはナシですか?ナシなんですよね?ナシなんだろうな・・・。 僕がそんなことを考えているとマルコが鼻を鳴らして言いました。 「お前たち実行委員の仕事は、当日までの運動会の準備の指揮と運動会当日のトラブル処理じゃけん。こき使ったるから覚悟せえよ」 だる・・・。 でも隣で右手を上げて元気いっぱい笑顔いっぱいで返事するせーなちゃんは可愛かったです。 あと脇が眩しかったです。話は若干逸れますが(てか逸れるの何度目だよって話ですよね) 僕は脇フェチでもあるんですよ。元の世界にいた頃誰にも共感してもらえませんでしたが・・・。 服の間からチラリと覗く健全な、あくまで健全な(ここ重要)ティラリズム。ここが脇フェチの真髄だと思います。 パンチラは見えないからこそ良い。脇チラは見えたからこそ良い。この違いを理解してくれる人にきっといつか出会えると僕は信じてます。 話を戻しましょう。マルコが続けて実行委員のハチマキを配るから1人ずつ取りに来いと言うんです。 それにやたら従順な猫二匹。獣同士繋がる何かがあるんですかね? それ以前にこの少人数で1人ずつ取りに来させる意味がよくわかりませんでしたが そっと心にしまって従う僕。でもさっきの怒り方はちょっとツボだったので後でわざと怒らせて見ましょうかね。 名前忘れたさん「運動会かあ、楽しみだねえ、皆」 僕「ええ、楽しみですねー」 これは酷い棒読み。やばいです。全く感情を込めることが出来ませんでした。 てかそれ以前に巫女巫女ナースコンビどこ行った。特にナースの方。 マルコ「それじゃあ、準備のために結構な人数が集まったけん。はよ行って作業するで」 平太「いえす!まむ!!」 エド「わかりましたにゃ」 せーな「よーし、やるぞー!」 こいつら元気すぎるだろ・・・。 ▼ それから数日が経った頃です。 この日も炎天下の中大道具や小道具の準備に汗を流す僕ら。 ある程度企画が纏まってからは参加を承諾したウィザードや侵魔の連中も一緒に作業してます。 これが意外と平和的。最初は若干ぎこちなかったですが割とすぐに打ち解けたみたいです。なんだ、やれば出来るじゃないか。 かく言う僕はと言うとですね・・・フフ・・・。 体育祭準備期間。女性陣は当然の様に体操服。しかも上半身は白い半袖Verです。 大小さまざまな形の双丘とそこにうっすらと咲く色とりどりの花。 ああ!みなまで言うな。 クク・・・素晴らしい、実に素晴らしい。 ハハ、クハハハ、アーッハッハッハ!現場確認の名目で色んな場所を行ったり来たりする実行委員も楽じゃねーなぁ! ちょっぴり気色の悪い笑みを浮かべながらそんな事を考えていると不意に後ろからスパーンと小気味いい音が響くと同時に後頭部に走る痛み。 「くるぁ祐一ぃ!女のケツばっか見てないで手ぇ動かせやぁ!」 ハリセンを持ったマルコでした。何でそんなん持ってんだよ・・・。 しかしこれは心外です。実に心外です。名誉毀損も甚だしい。僕は言ってやりましたよ 「僕は尻には興味ない」 「確かに、いつもパトリシアの胸を凝視していますわね」 「胸かぁ~?」 また後ろを振り返るとジト目のエイミーとニヤニヤしてるせーなちゃんが立っていました。 エイミーはいつものメイド服。せーなちゃんはブラッヴォオオオオオオオオオオォォォォオオオォォォ!!!!!! しかしこれはまずいです。このままでは僕の扱いがますますぞんざいになることは火を見るより明らかです。 「い、いやぁ!みんなでやると作業がはかどりますね!」 何とか事態の沈静化を図る僕。 しかし時既に遅し、マルコは顔を赤くして「こっ・・・このエロガキが!ウチがその腐った性根叩きのめしたるけん!」と叫んで 僕の首根っこを掴むとずるずると人のいない裏庭に引きずっていきました。 エイミーとせーなちゃん? 彼女らがこの状況で僕を助けてくれるなんて幻想は抱いてませんよ?ええ・・・。 ▼ 宮殿裏なう。いやこれ書いてる時点でなうじゃry 人気の無い宮殿裏に女の子と2人きり。 ギャルゲの主人公ならここでフラグの1つでも建てるのでしょう。 ところがどっこい、セクハラで強制連行されたDTから芽生えるラブストーリーなんざあるわけがありません。 マルコは宮殿裏に着くなり首根っこから手を離しました。 派手に尻餅をついた僕を見下ろすと顔をリンゴの様に赤く染めて腕をぶんぶんと振りながら言うんです。 「全く・・・お前には威厳とかなんかこう・・・・・えーっと・・・・・・とにかく、魔王に必要なものがまるでないけん!だらしないっちゃ!」 まくし立てるように言い終えると、腕を組んで少し拗ねた様な表情を僕に向けてきました。 もしかして:マルコルート 嘘・・・だろ・・・。ここに来て個別ルートのフラグだと・・・。 馬鹿な、僕に限ってそんな浮いた話が・・・いやしかしこの展開は・・・! この際その変な口調とか僕は魔王になりきる気がないとかどうでもいいです。 ここは外せない、外すわけにはいかない。慎重に行く必要があります。 僕はゆっくりと立ち上がり服についた土埃を軽く払い落とすと、正面に立つマルコを真剣な表情でひたと見据えました。 突然の雰囲気の変わりように若干戸惑った様子のマルコ。訝しげな視線を突きつけてやがりました。 ここで選択肢を間違えるわけにはいかない。僕だってリア充になりたい。彼女居ない暦=年齢の絶対的等式にピリオドを打ちたい。 オーケー、心のセーブポイントにセーブもした。僕はすうっと息を吸い込み、ゆっくりと言葉を紡ぎました。 「いやいや、これは自然の摂理ですよ。山があるから登る、山があるから覗く。この2つの事象に何ら違いは・・・」 マルコの アイアンクロー▼ こうかは ばつぐんだ▼ 選択肢間違えちゃった。てへぺろ 全国の男達の気持ちを代弁したつもりなのですがどうやら違ったくさいです。ピンチです。 心のセーブポイントにアクセスを試みましたが、一向にタイムリープできる気配がありません。 アイアンクローの圧力が徐々に増してきています。電話レンジ(仮)を早く! 「痛っ、すいませんすいません冗談っす!」 顔面にカレーの妖精よろしく凄まじい汗を浮かべて必死に弁明する僕。 父よ、あなたは今の我が子の姿を見てどう思いますか? 見た目年下の少女?にアイアンクローを喰らいながら必死に許しを請う21歳童貞。 スタイリッシュ☆勘当は避けられないでしょう。 「変なこと言って誤魔化そうとしたって、そうはいかないけん。お前がいつまでもそんなんなら、嫁になんかしてやらんからな!」 アイアンクローの圧力を着実に強めながらマルコはそう言い放ちました。 いや変な事も何も僕は世の中の紳士諸君の気持ちを代弁しただけなわけでして・・・それ以前に嫁っておま・・・。 そこまで考えて、僕は頭に鋭い痛みが走っているにも関わらずふと冷静になりました。 よ・・・め? もしかして:フラグ継続? イヤッホオオオオオオオオオォォオオオウ ククク、ついに僕の時代が来ましたかね? まあアイアンクローは更にその力を強め確実に僕の頭蓋骨を砕こうとしてるわけですが・・・。 アイアンクローをクリティカルで受けながらも僕はずっと気になっていたことを聞いたんです。 「ねぇ、年いくつっすか?」 「知らん、数えるのも面倒や」 ですよね。流石合法ロリの街、ラビリンスシティ。 「と、とりあえず作業はちゃんとしますよ。任せてください・・・」 いい加減アイアンクローを解いて欲しいので懇願する僕。 「当たり前じゃあ!」 一喝して僕を地面に叩きつけるが如くポイするマルコ。 「それとなぁ・・・。その、なんじゃ。年で言ったらお前の方がずっと上じゃけん。その辺覚えとけや」 合法ロリじゃなかった。アウアウロリだった。 イヤッホオオオオオオォォオオォォウ! しかしまあこの舌っ足らずロリ巨乳犬耳魔王に敬語も馬鹿らしくなって来てしまいましてね。 「あ、じゃあ敬語いいかな」 「ふん、ウチも堅苦しいんは苦手じゃ」 そう言ってマルコはしっぽふりふり耳ぴこぴこさせながら踵を返して去っていきました。 アウアウロリだとわかっていても僕は湧き上がる情動を抑えられませんでした。 76、55、80 やめて、通報しないで。 尻尾を左右に激しく振りながら去ってゆく後姿。 僕は未だに鈍く痛むこめかみを押さえて治癒魔法の勉強を心に誓うのでした。 Scene3 想定の範囲内です そんなこんなで運動会当日を迎えました。 雲一つない晴天です。太陽がさんさんと輝いておりますた。 少なくとも僕の未来よりはよっぽど明るいですね、はい。 ラビリンスシティの運動公園には紅白帽をかぶったウィザードや侵魔の方々で溢れかえっております。 ルールなんて今更説明する意味があるのかと思いますが一応書いておきますかね。 ウィザード、侵魔混成の紅白2チームで競う 競技毎に得点が定められており合計点が高いほうの勝ち それだけ 朝の9時、丁度開会式の時間を迎えたときです。 炎天下のグラウンドに列を成す出場選手を横目に運営テントの日陰で開会式を待つ僕。 開会式は基本名前忘れたさんに一任していたので僕は気楽にまったりと目測してたんです・・・。 名前忘れたさん「それではこれより開会式を始めます。開会宣言、体育祭実行委員長日下祐一」 ハイハイハイ。そんな気はしてたんですよ。 あらかじめわかるように説明しろっつってんだろ・・・。 ただこのお人好しクラス委員的オーラを放つ名前忘れたさんが 打ち合わせもなしに開会宣言を僕に振ってくるとは思えなかったんです。 単なる連絡ミスか、はたまた何者かが仕組んだ巧妙な陰謀か。ふと隣の医療班テントをチラ見すると 巫女巫女ナースのナースの方が表情筋をプルプルさせていました。 FUCK!! 僕が・・・何をしたって言うんだってばよ・・・。 重たい足取りで壇上に上がると、夥しい数の視線が一斉に僕に集まるのがわかりました。 僕が緊張してパニックになるとでも? これくらい想定の範囲内ですよ。 僕は後ろ頭をぽりぽりとかくと若干気だるげに切り出しました。 「いやー、良い天気っすね。堅苦しいの苦手なんで手短に行きます」 会場全体から浴びせられる無数の「何だこいつは?」的な視線。でも僕は構わず続けました。 「怪我しない程度に楽しんで結束を高めて来るべき決戦に備えましょう」 そこで一旦言葉を切るとダンディかつニヒルな笑みを唇に刻む僕。 「優勝したチームは我らがLBCのエンジェル、フレデリカ・ノルドが事実上経営するフライングポニー亭主催で朝まで大宴会を行なう」 出場選手の約半数がぴくっと反応したのを僕は見逃しませんでした。僕は大きく息を吸い込むと 僕「ポニー亭の酒が飲みたいかー!?」 出場選手♂「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 同時に野郎共の地響きを伴う雄たけび。滑ったら死のうと割と本気で思ってましたがどうにか延命できました。 僕「フレデリカさんに酌してもらいたいかー!?」 出場選手♂「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」 野郎共の雄たけびに発狂じみた奇声が混じりました。もはや女の子達ドン引き。 僕「フレデリカさんに優しく介抱してもらいたいかー!?」 出場選手♂「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!!!!!」 戦国武将の合戦開始を思わせる野郎共の雄叫びが空間をも振動させます。 僕「っしゃあ!張り切って行くぜ!」 そして華麗にターンすると英雄の凱旋の如く堂々と運営テントに帰還。 あ、この時のエイミーやマルコ達女性陣が僕に向けた絶対零度の視線は一生忘れないと思います。 Scene4 周囲には美少女が溢れている筈なのにテンションが上がらない 女性陣の冷ややかな視線で串刺しにされながら引き続きテントで目測に勤しんでおりますと、 「あの、ちょっといいかしら」と、 背後から神妙な声と共に千羽矢が入って来ました。 嫌な予感しかしない。 「えっと・・・早速トラブルですか?」と聞き返す名前忘れたさん。 おいやめろ。 「ほぼ確定だと思うのだけれど、少し気になる情報が手に入ったの」 やめてください。お願いします。 「ヴォーカンと言う知能が高く機械を操る冥魔が、この運動会を妨害しにくるみたいなの」 ガッデム! その後の千羽矢の話によると、ヴォーカンは運動会を失敗させてウィザードと侵魔の溝を深くするのが目的らしいです。 そしてヴォーカンが妨害に出ると思われる種目は以下の3つ。 大鬼ごっこ マグロ投げ 箒リレー 僕は突っ込みませんよ。だるいし。 そして各々が自分のパトロール地区を確認しておりますと、第一種目の168m走が始まりました。 「うおおおおおおおおおおおお顔から転んで摩り下ろされなさいよアホベル!」 「あんたこそその鈴飲み込んで窒息死しなさいよバカパール!」 スタート合図の空砲が高らかに響き渡ると同時に会場の注目を浴びる某魔王2人。 2人の走りは画面から出てきたエイミーから逃げるいつぞやの僕をも凌駕しております。 クソッ・・・突込みどころが多過ぎる・・・! Scene5 俺は人間を辞めたぞぉー!(今更) はてさて、噂の大鬼ごっこが始まるまでいよいよ後30分を切ろうかと言う時間になりますた。 大鬼ごっこについて簡単にルール説明をしますか。 紅白10人ずつのサバゲー。エリアはシティ全体。以上。 もう種目名サバゲーでいいだろ・・・。 特にヴォーカンの妨害方法やその対処法が浮かぶわけでもなく、時計の針が進むのをボケっと眺めてますと、 「妨害兵器をシティに配置してるんじゃないかな」 唐突に仰る名前忘れたさん。 確かに機械を使うとかどうとか言ってましたね。 名前忘れたさんは僕の方へ向き直ると続けます。 「私だったら競技が始まるまで電源を切ってどこかに隠しておくかな。何とか探せないかな、日下君」 何でもかんでも僕に押し付けるのやめてくださいよぉー! 心の内にスクリームしつつも、機械探しの方法を不本意ながら持っている僕。 "ロケーション"と言う便利魔法を覚えてましてね。 探し物の方向・位置が手に取るように判ってしまう魔法なのです。 ただですね、この魔法致命的な欠点があるんです・・・。 探し物の姿そのものを見ることができないんですよ。あくまで位置がわかるだけで。 折角男子禁制乙女の聖域を垣間見ることができるかと思ったらコレですよ・・・。 クソッ・・・!本当にもう・・・クソッ・・・! ロケーションの結果、シティの6箇所に各2体ずつ配備されていることがわかりました。 僕、千羽矢、せーなちゃん、エドワード、平太、名前忘れたさん 頭数は足りますかね。名前忘れたさんもウィザードなので動かない機械を破壊するくらいはできるでしょう、恐らく。 その旨と場所を伝えると皆さん颯爽とテントを後にして散り散りになりました。 若いって素晴らしいですね・・・。 ▼ 重たい腰を上げて兵器の配備場所に行ってみますと、そこには・・・ 正座してバズーカ砲を構えているガチムチな外国人男性の体をした兵器が2つ。 兵器とは銘打つものの、ヒューマノイドに近い印象を受けますね。 黒いブーメラン形の海パン一丁で黒光りするボディが不快感を一層煽ります。 月衣からデモニックを出すとその場から横薙ぎに一閃。 エアブレードの真空波が金属音と共に兵器を綺麗に一刀両断しました。 無常にも上半身と下半身がアディオスした兵器を見下ろしながら「僕も人間辞めてるよなぁ・・・」と小さく溢すわたくしですた。
https://w.atwiki.jp/nwxss/pages/228.html
ある歌に、こんな歌詞がある。 『なつやすみはやっぱり短い』。 日々移ろいゆく季節の中で、これほどにはじまる前に胸をときめかせ、終わってみれば短いと感じる季節は夏くらいのものだろう。 この話は、本来は重なることのない二つの世界の中で重なってしまった子供たち、その短い夏の物語。 オープニング・1<今日も今日とて -放浪の魔剣使い-> 月匣、と呼ばれる結界がある。 それは第八世界ファー・ジ・アースと呼ばれる世界においての非日常の象徴。 日常の世界を覆う世界結界に、非常識の存在が干渉を受けないようにするための個人用結界『月衣』を改良した、個人による一つの即席結界。 逆に言えば、持ち主(ルーラー)を中心とした一つの異界だ。 この世界において、これを使えるものは二つ存在する。 一つは人間でありながら、この世界の常識外の法則を身に纏う者。夜闇の魔法使い。ナイトウィザード。 いまひとつは、そもこの世界の法則より外れたもの。異界より来るもの。この世界を狙うもの。侵魔。エミュレイター。 月匣の内容は千差万別。何もない月匣もあれば、夏草の匂いに青い空と白い太陽と夏の世界が再現されているものもある。 これは個人の心理状態が多少なりと反映される結果であると言える。 しかし。侵魔の作った月匣は、必ず同じ一つの現象が存在する。それが、 ―――紅い月だ。 月門(ムーンゲート)をくぐり現れる彼らの月匣には、欠けることなき紅い月が昇る。 それはどこで月匣が展開されても変わらない。北極だろうが深海だろうが、果ては月面や宇宙空間であっても紅い月が浮かぶ。 そして、ここにも一つ。 紅い月の照らす月匣の中で、一つの闘いが終わろうとしていた。 月光に照らされ、その赤光を跳ね返す白刃。それをのどもとに突きつけられしゃがんでいる、金髪に紅い目、白いシンプルなフレアワンピースの少女。それがルーラーだ。 彼女は片腕を喪失しており、しかしその断面から血は出ていない。それこそが彼女が人間でないことの証左。 白刃を突きつけるのは、ボロボロの青年だった。服は汚れだらけ、顔には疲労の色がある。けれどそのまなざしだけはいっそ残酷なまでにまっすぐに侵魔を見据える。 ヘーゼル色の髪、ダークブラウンの瞳、だらしなくゆるんだ襟元、エンブレムのついたロングコートを羽織った東洋人。 彼の顔と名を知らぬウィザードはいまやないと言っていいだろう。その名は裏界帝国や他世界にも知れ渡っている。 柊蓮司(ひいらぎ・れんじ)。 相棒である赤い宝玉の魔剣を担い、輝明学園卒業後は各地を飛び回る生活を続けるフリーの魔剣使い。 ……最近は『ノラ魔剣使い』とか『二割魔王の小間使い、四割ロンギヌス、四割異世界旅行者なトラブル磁石』とか 『不幸学生改め不幸住所不定無職』とか酷いあだ名も増えたが。とりあえず彼の忙しさは変わらない。 ちょっと前まで実家に帰省しようとして東京は大田区桃月町にいた彼だが、その後世界の守護者によって捕獲。 神無月を狙って、富士山に封じ込められている100年に一度目覚めかける冥魔ヴォルカリーノの封印を解こうとする侵魔との攻防戦を浅間神社で繰り広げ、 最終的に目覚めた冥魔ヴォルカリーノを仲間達とともにぶち倒すことに成功した彼は、その地と仲間達とも別れを告げて今度こそ実家に帰ろうとした、その矢先。 悪意ある月匣に一人飲み込まれ、多数の雑魚を放ってくる侵魔相手に70時間ほどサバイバルゲリラ戦を繰り広げて根競べし、なんとか彼の勝利で幕を閉じようとしていた。 柊は、恐れを含んだ瞳で見返してくる侵魔に対してため息をつきながら言う。 「……ったく、時間だけ取らせやがって。数で攻めりゃなんとかなるとでも思ってたのか?あんまり人間ナメるなよ」 それに対して侵魔は奥歯を強くかみ締めただけ。この体勢からではできることそのものがほとんどないとも言えるが。 そして彼にはこれまで積み上げてきた数々のエミュレイターとの交戦経験がある。この状況でも油断することはありえない。 生命力を吸わせ、魔剣に青い輝きが通る。その間にタイムラグはない。彼らが同じ修羅場を幾度となく乗り越えたゆえにできる連携だった。 彼がとどめをさすために魔剣を握る手に力を込めた、その時。 ―――月匣が、大きく揺らいだ。 月匣とは先ほど記述した通り結界だ、地震なんて天災が起きるはずもない。 柊がその異変に対して周囲への警戒を強めた瞬間、自身への警戒が揺らいだことを感じ取った侵魔は後ろに駆け出した。 反応の一瞬遅れた柊は舌打ちして異変を後回しに相手との距離を詰めにかかる。だいぶ疲労しているとはいえ、ここまで追い詰めた侵魔を逃がす気は毛頭ない。 あと一歩で剣の間合いに取り込もうというところで、侵魔は振り向きざまに手のひらに虚空を生み出し柊に向けて放つ。 存在を司る虚属性の初等攻撃魔装、<ヴォーティカルショット>だ。そう大きなダメージにはならないが、柊が魔剣をもってその魔法を弾こうとした、その刹那。 柊の前方に、強力な空間の歪みが発生する。 ちょっと前の事件で虚属性―――空間や存在を統べる属性―――の魔法に対して、蝿の女王により軽いトラウマを与えられていた彼は思わず足を止める。 そもそも、月匣の中で空間の歪みが発生することは稀だがある。柊自身も少しばかり経験があるため、その記憶がオーバーラップした。 あの時は魔剣だけが空間のゆがみの先に飲み込まれ、しばらく「使い」扱いされたということもあったりした。ちょっと嫌な懐かしい思い出である。 そして、その判断が運命の分岐点だった。 柊に向けて放たれた虚属性魔法と、彼の前方に発生した空間の歪み。それはいっそ見事なまでにかちあってしまったのだ。 虚属性魔法は空間や存在に干渉するもの。それが発生した空間の歪みに妙な相互干渉を招き起こし―――結果、その歪みは暴走した。 一瞬針の先ほどのサイズに収縮する歪み。次の瞬間には次元爆発が月匣中を覆い、その圧力は月匣の存在限界を容易く突破する。 その爆発力は、すでに存在力の限界に極めて近かったルーラーの侵魔はもちろんのこと、至近距離にいた柊を巻き込み――― ―――月匣を破砕した後、収縮・消滅した次元の歪み。その後には何も残っていなかった。 柊蓮司は、この日を境にファー・ジ・アースから姿を消すことになる。 オープニング・2<任務中の出来事 -ファルコンブレード-> 「……なんで俺がゴミ捨て担当なんだ?体力なら加賀の奴の方が上だろうに……」 夜明けの秋葉原。 季節柄下がらない暑苦しい空気の中、よたよたとゴミ袋を両手に持ったウェイター姿の青年が、グチりつつ人通りのない道を歩いていた。 彼の着ている給仕服は、秋葉原の常連ならば皆知っているメイド喫茶「ゆにばーさる」のものだった。 やや短めで、ぴんぴんとハリネズミのように立っている黒髪。中肉中背。やる気のないだらけた表情の青年は、胸の紙製のバッチに平仮名で「はやと」と書いてある。 高崎隼人(たかさき・はやと)。 秋葉原のメイド喫茶「ゆにばーさる」のウェイターの一人であり、レネゲイドウィルスに侵され、オーヴァードとなって、UGNに育てられたUGチルドレンの一人。 UGN、正式名称『ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワーク』とは、18年前に存在の明らかとなった謎のウィルスであるレネゲイドウィルスと、 それの作用によって生まれた異能者・オーヴァードという存在を、通常の人々と共存していこうという思想の下に設立された団体である。 世間一般的には、レネゲイドウィルスのこともオーヴァードのこともいまだ知られていない。だからこそ、現状はレネゲイドがらみの厄介事をなんとかする組織でもある。 その「なんとかする」の状況上、ウィルスに感染した身寄りの無い子供達に能力の使い方を学ばせ、 UGNの組織構成員として組み込んだ存在―――それがUGチルドレンと呼ばれる存在である。 隼人はそのチルドレン出身であり、今はれっきとしたUGNのエージェントであるはずなのだが、この町でウェイターの仕事にいそしんでいた。 一応言っておくと、これも悲しいことに立派にUGNとしての仕事である。UGNアキハバラ支部、それこそがメイド喫茶『ゆにばーさる』なのであった。 なんでメイド喫茶が世界的規模の団体の支部なんだよっ!?というツッコミは日本支部のお偉いさんにしていただきたい。 ともあれ。早朝から店の仕事に狩りだされていた隼人はやる気なさげにゴミ捨て場に向かっていた。 ゴミ捨ての日の朝に出さないとカラスと猫と町内会がうるさいのである。近所づきあいは大切だ。 なお。隼人はゴミ捨てだからやる気が無いわけではなく、仕事全般にやる気が見られないのだと記しておく。基本的に人から指示されてやることにはやる気のない男である。 よっこらせ、とじじむさい声をかけてゴミを置き、踵を返したその瞬間だった。 背中を向けたゴミ置き場から凄まじい音がして、隼人は思わずそちらを振り返る。そこにあったのはゴミの山だけではなくなっていた。 ゴミの山。そして―――その中から天に向けて伸びる二本の足がはみ出ていた。 あまりの光景に、一瞬本気で呆気に取られる隼人。 それも無理からぬことだろう。結構な無理やムチャクチャには慣れているはずの彼でも、こんな状況ははじめてだった。 ともあれ、数々の奇妙な体験をしている彼も順応は早い。とにかくゴミか事件かを判断するためにもその足に手をかけて引っこ抜いてみる。 ……手をかける直前にこれで足だけだったらホラーだな、なんてちょっと考えて怖くなってしまったりもするが、スプラッタ自体は見慣れている。それも悲しい話だが。 とにかく引っこ抜いてみれば、それは足だけ―――なんてことはなく、ちゃんと胴体も頭もついた人間だった。 年のころは隼人と同じくらい。ちょっと身長が高めの男。特別奇妙な格好をしているわけでもないが、この「真夏」に薄手とはいえコート姿というのが妙といえば妙か。 やけにぼろぼろなのが気になって、よく観察してみるとその服のところどころには自然に擦り切れたというような穴ではないものが見つかった。 何かで突き刺したり、千切り取ったり、果ては不自然に消え去っているところまである。 そんな数々のコートの穴を見れば、隼人にもこの青年がまっとうに生きている類の―――日常の側の存在でないことが理解できる。 オーヴァード(どうるい)の可能性が高いな、と思ってから、支部長に連絡しないわけにはいかないと判断。その場で携帯を取り出し指示を仰ぐ。 その時だ。 倒れていた男が、隼人のエプロンのすそを掴む。 ちょっとホラーな展開に、慌ててうっかりモルフェウスの能力が暴走しかけた。近くのゴミ袋の山が砂に変わるのを横目に見つつ、隼人は男に問いかける。 「な、なんだよ……っ?」 その問いに、小さな声が返った。あまりに小さすぎて聞き取れないため、おそるおそるしゃがんでもう一度問いかける。 「―――もう一回。聞こえないからできるだけはっきりしゃべってくれ」 ホラー展開にちょっぴりビビりつつも、相手の言葉を聞き取ろうとする隼人。 もしもこれが最後の言葉になるのだったら、それを聞く人間は心して聞かなければならないと、彼は知っているからだ。 そして、もう一度同じ言葉が繰り返される。今度はちゃんと聞き取れた。 「……腹減った」 ……真相を知るとものすごく脱力してしまいそうだったが。 いっそここに捨てておいてやろうか、という思考が生まれるものの、携帯の先の上司と繋がってしまったためそうもいかない。 とにかく上司にはあやしい男を発見したこと、話が聞けそうなこと、ついでに腹を空かせていることを告げると、 彼女は詳しく事情を聞くのでマンションの部屋までつれて来い、との命令を下した。 時間は早朝。他のエージェントをたたき起こすのも忍びないので、隼人が背負ってくるように、とのお達しである。 面倒だなぁとか、置いてきたもう一人の店員―――加賀十也(かが・とおや)に後でキレられんの俺じゃね?とか憂鬱に思いつつ、 かといって言われたこと全てに反逆しなければ気がすまないような、『No』としか言わない男でもないためいやいやながらも男を背負う。 同じような体格の人間を背負うのはちょっぴり厳しいが、無理というほどでもない。 ぶつくさと文句を言いつつ、指定の場所に謎の腹ペコ男を連れて行く羽目になる隼人だった。 UGNのアキハバラ支部は一つマンションを貸切で所有している。 他の支部に飛ばされては戻る人間がいたり、また掻き入れ時には人員が倍近く膨れ上がったりと人の出入りが他の支部に比べ大変多いので、 いちいち住居空間をとり、把握するのが大変めんどくさいという理由から日本支部長がわざわざ買い与えたという経緯である。 そのアキハバラ支部のセーフハウス、その支部長の部屋に隼人はいた。呼び出されたのだから当然といえば当然だが。 とりあえず担いできた男を見るなり、支部長は一言。 「だいぶ汚れてるみたいなので洗ってきてください」 ……明け方に叩き起こされて大分ご立腹なようである。 ともあれ。 『なんだか準備よく用意されている隣の空き部屋のバスタブになみなみと水が張られているので、さっさと叩き込んでこい』とニコニコとした笑顔で言われ、 『ワカリマシタイッテマイリマス支部長サマ』としか答えられない立場(原因には性格も多分に影響しているが)の隼人が逆らえるはずもなく。 とりあえずは隣の部屋を開け、浴室に入り、一つ深呼吸。可哀相な気もするが、これも支部長命令だ。悪く思うな、と心の中で先に謝罪。 肩に担いでいた青年を、ぽいっと空中で半回転させながらバスタブに放り込む。大きな質量が沈んだことで大量の水が舞う。 制服姿のまま水をかぶるのはまずいとハヌマーンの能力をフルに使って浴室の扉を閉めて被害をシャットアウト。やけに所帯じみた能力の使い方である。 そうやって、一秒経過。二秒経過。三秒――― 「……ぶはぁっ!な、なんだっ!?なんで俺はいきなり水責めくらってんだっ!?アンゼロットの陰謀かっ!?」 「お、起きた」 「起きないと溺死するわっ!?」 なんか司の奴に雰囲気似てるなーこいつ、と隼人は思いながら見ていたが、まず聞かなければならないことを聞くことにした。 「でさ、お前誰だ?」 「いきなりそれかっ!?今水の中に放り込まれてる状況についてとか、ここがどこなのかとかこっちが聞きたいことは山ほどあるんだがっ!?」 「それについては俺じゃない奴が後で説明することになってる。とりあえず名前聞かないと話もできないからな」 ……ちなみに、これは先ほど支部長から授けられた質問法である。 交渉事の苦手な隼人に相手を怒らせかねないことをさせるわけなので、ある程度相手を丸め込む方法を教えておいた支部長であった。 <社会>の低い隼人であったものの、相手はさらに低かったのか、お、おうと呟いて答えた。 「俺の名前は柊蓮司。で、お前は?」 「高崎隼人だ。とりあえず体洗って出てきてくれ。状況の説明してくれる人のところにつれてくから」 ばたん。と浴室の戸を閉める隼人。 浴室はしばらく静かだったものの、ざぶざぶという音がし始める。 隼人はさっさと青年が出てきてくれることを祈った。野郎の風呂上がりを待つ趣味は彼にはない。 結局のところ隼人は男―――柊が出てくるまで、これは任務なんだから、と何度も何度も心の中で繰り返す羽目になった。 タオルも着替えも用意していなかったはずなのに、髪の水気を大雑把にふき取り、新しい服を着て浴室から出てきた柊を見て少しだけ疑問に思うものの、 隼人の仕事は彼を浴槽に放り込んだ後、柊を支部長のところに連れて行くまでだ。無駄に干渉する必要はないだろう。 隣の部屋のドアの前に立ち、ノックを二回。はーい、とかわいらしい返事を待って入る。 そこには、黒髪を分けて綺麗に微笑む、アルミの椅子に座ったちみっこい女の子がいた。 彼女の名前は薬王寺結希(やこうじ・ゆうき)。弱冠14歳のUGN秋葉原支部支部長である。 通された部屋は、樫のデスクにシンプルな革のソファがあり、その対面に結希が座っている。彼女の部屋に特別に用意されている応接間だ。 笑顔を崩さず、結希は二人の青年に座るように促す。 「ご苦労様でした隼人さん。お名前は聞いてもらえましたか?」 「あ、はい支部長。えーっと、こっちは柊蓮司って名乗りました。 柊。こっちが俺の今の上司で、薬王寺結希支部長」 「……支部長?」 柊は目で礼をした後にソファに座ると、不思議そうにきょとんとしている。 結希は少し頬を膨らませると、抗議する。その見た目が子供がむくれているようにしか見えないのが問題だが。 「む。私、これでもこっち側では有名なんですよ?外見で判断しないでください」 「あ、年恰好で驚いたわけじゃないんだけどな。気分悪くさせたなら謝る。悪い。年と中身と外見が一致しないっつーのには慣れてるしな」 その言葉にはにゃ?と首を傾げる結希。 柊はしばらくあー、とかうーとか唸っていたが、やがて頭の中で考えがまとまったのか、結希にたずねた。 「で、えーと支部長さんだっけか。こいつ―――高崎だっけ?によれば、状況を聞かせてもらえるっていうからついてきたんだが、いくつか質問させてもらっていいか?」 「こちらも伺いたいことがいくつかあるんですが、あなたも状況を把握してからの方が話しやすいでしょうしね。 お話に答えるのはいいですけど、隼人さんもこの部屋にいてもらったままにしてもいいですよね?」 「おい、支部長っ!?」 任務が終わったと思い込んでいた隼人があわてて割り込むものの、そこは結希も慣れたものだ。 笑顔の高速切り返しが飛ぶ。 「あれ?隼人さんは戦闘力のほとんどない女の子と、得体の知れない男が一つの部屋にいることを放っとくんですか?」 「ぐ……わかったよ、わかりましたよ仕事だろ!」 「はいお仕事です。そんなわけですのでもうしばらく支部長(わたし)の言うことを聞いててくださいね」 そんなやりとりを見て、柊はちょっと隼人に同情したような視線を向けるものの、さて、という結希の言葉に彼女に視線を戻す。 「それで、柊蓮司さんでしたか。何が聞きたいんですか?」 「まずは地名か。あと日付」 結希、再びのはにゃ? 首を傾げたまま答える。 「ここは東京の秋葉原で、日付は8月×日ですよ?」 「秋葉原……ってことは日本か。それはいいとして、8月だぁ?……うぉ、今度は時間旅行か?先なのか過去なのかはわからんが」 「8月がどうかしましたか?なにかまずいことでも?」 「いや、こっちの話だ。えーっと……薬王寺ってことは支部長さんは日本人ってことでいいんだよな?」 「えぇ、ここ日本ですし。……っていうか、さっきから妙なことばっかり気にしますね?」 結希はいぶかしげな表情で柊を見る。柊はといえば、やはり何か色々なことを考えているようだった。 しばらく考えた後、再び結希に視線を向ける。 「で、支部長さんはここに高崎を残してるよな? 同じ部屋に男と一緒にいるのは危険だから、ならわかるけどあんたは自分をさして戦闘力のない、って言った。 それは高崎があんたの護衛役としてここにいる、ってことでいいよな」 「えぇ。それで問題ないですよ」 続く柊の質問に、結希は少しだけ目を細めて隼人に目配せする。 もしも自分を狙っているのなら守ってくれ、という意味の目配せだ。しかし、次に柊の口から出た言葉に隼人も結希も言葉を失うこととなる。 「あんたらは、『人間』から恨みをかうようなことをしてんのか?」 「……はい?」 「そもそも、支部ってことはなんかでっかい組織の下っ端ってこったろ?どこの組織なんだ?」 「え?え?あー……私たちはUGN、ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワークのエージェントってことになるんですけど……」 オーヴァードが、しかも柊くらいの年で主に所属する場所といえば、UGNか、敵対組織のFH(ファルスハーツ)になる。 このどちらでもないとした場合でも、こちら側に慣れているとすれば、『支部』という単語を聞いた場合は単独行動の多いFHよりもUGNのことを想像する可能性が高い。 結希は考える。 柊は頭の回転自体は悪くない。それは結希たちの短い会話を聞いただけで、隼人がいる理由を正確に掴んだことからもわかる。 戦う、といった剣呑な話題にもついていけることから、日常の世界からいきなり非日常の世界に放り込まれた成り立てオーヴァードでないこともわかる。 なのに彼は結希たちがUGNの人間だと予測できない。 それはまるで「UGNという組織の存在を知らない」かのようではないか―――? 結希の混乱をよそに、柊はまた何かを考え込んでいるようだった。またもしばらく唸った後、彼は三度結希に視線を戻した。 「悪ぃ。UGNっていうのは聞いたことねぇわ。世界的な組織か?」 「え?ゆ、UGNですよっ!?ほんとに聞いたことないんですかっ!?」 あわてる結希にこくりと頷き、柊は隼人の方をちらりと見た。 隼人としてもUGNを知らない、というオーヴァードははじめて見たためそれはもう驚いている。 UGNのチルドレンとして育った身としては、UGNを知らない非日常の存在はかなりの衝撃だった。 その様子を見て納得したのか、彼は頷いてもう一度結希に向き直る。 「まったく聞いたこともない。確認のために俺からも質問していいか。アンゼロットって女の名前、聞いたことないか?」 「アンゼロットさん、ですか?……ごめんなさい、聞いたことないです。有名なオーヴァードですか?」 「いや、俺の……あれ?あいつと俺ってどういう関係だ?腐れ縁とか?上司と部下じゃないし、そもそも俺はフリーだし、えぇと……あぁ、依頼人!依頼人だ今回の!」 「……そ、そんなに関係に困る人なんですか。どんな人なんです、アンゼロットさんって」 「人使いは荒いわ、無理は笑顔で押し付けるわ、毒飲ますわと俺への嫌がらせに命かけてる奴だ。絶対に。そうとしか考えられん」 『失礼ですわね。わたくしはそんなにヒマではないですわよ、柊さん』 柊と結希、ついでに隼人でもない声が響く。 声自体は落ち着いた、しかし少女のソプラノだ。そのきれいな響きを耳にして、なぜか柊の動きが凍りつく。 その声は柊の懐から。ゆっくりと、いっそおそるおそると言った方が正しいような様子で彼は懐を探り、音の元と思われるものを引きずり出す。 それは携帯電話だった。 ちょっと普通の携帯には付いていない水晶のような結晶が張り付いているが、それもアクセサリとして見られないほどのものではない。 なお、柊はそれを取り出すだけでなにか人体から流れるには危ない量の汗を流しているような気がしなくもないが、隼人はそれを無視することにした。可哀相ではあるが。 その携帯からは『開けてー開けてー、早く早く早く早く開けて開けて開けてぇぇぇぇっ!』とちょっとホラーっぽい声がする。 それは先ほどの声とは違う電子音である。悪趣味にもほどがある気がするが、まぁそれは仕込んだ人間の趣味だろう。柊自体には覚えがなさそうだし、と隼人は思う。 柊は意を決して携帯を開く。同時に携帯の液晶画面から、立体映像の少女が浮かび上がった。 おぉ、と感嘆の息をつく隼人。それはこの町に来てから趣味としてちょっとばかり機械関係に詳しくなり、機械関係で友人を作った彼にとっては興味をひくものだったのだ。 立体映像の少女は長い銀の髪。地球をそのまま瞳にしたかのような蒼い瞳。年のころや発達段階は結希と同じくらいだろう。黒く、装飾の少ないドレスを着ている。 神秘的な空気を振りまき、優雅にティーカップを傾け、携帯を前にぐったりしている柊に微笑みかける。 『お久しぶりです柊さん。ご無事なようでなによりですわ』 「お前、人の0-Phone に何を仕込んでやがるんだアンゼロットぉぉぉぉっ!?」 『あら仕込むなんて人聞きの悪い。ちょくちょく異世界に引きずり込まれる柊さんのために状況を整理するためのギミックをいくつか仕込ませていただいただけですわよ?』 「仕込むって自分で言ってんじゃねぇかよっ!?」 さっきまでぐったりしていた柊が元気にツッコミをいれだしたことに驚く隼人。 彼が結希の方を見れば、彼女は彼女であまりの事態にもう頭の処理がついていっていない様子だ。 そんな彼らをおいてきぼりに、柊と少女―――アンゼロットの会話は続く。 『それだけツッコミの活きがよければ大丈夫そうですわね。 ―――さて、あまり漫才をしている時間もありません。貴方は今の状況を把握してらっしゃいますか?』 「―――あぁ。また異世界に来ちまったっつーことだろ?」 『正解ですが、もうひとつ大切な点があります。その異世界に来たのはあなただけではないということ、それがどういう意味か、理解なさってますか?』 「……可能性の一つとしちゃ考えてたが、最悪だな。ここがどんな世界かもわからねぇっつーのに」 柊が苦い表情で言う。 ちなみに隼人や結希は本気でどんな話が進んでいるのかまったくわかっていない。 それまで処理限界を吹っ飛んでいた結希の意識が戻ってきて、彼女は意を決したようにホログラムの少女に問う。 「え、えぇーと……あなたが柊さんの依頼人のアンゼロットさん、ですか? 彼の身柄は私たちUGNが預かってます。どういう事情があるのか話していただけませんか?」 『あらあらはじめまして。アンゼロットと申しますわ、薬王寺結希さん。お話は柊さんの内ポケットの中から聞かせていただきました』 「盗聴器までついてんのかっ!?」 『気にしたら負けですわよ柊さん。 それで―――そちらにご厄介になっている柊蓮司の状況と、私たちのことについてご説明すればよろしいのですわよね? とはいえ、話すと時間がかかってしまいますので―――<安直魔法・かくかくしかじか>~♪』 そうアンゼロットが言った瞬間、隼人の頭の中に大量の情報が流れ込む。 魔法と呼ばれる力の存在する世界、ファー・ジ・アース。 その世界を襲うもの、エミュレイター。 その世界を守るもの、ウィザード。 柊蓮司はアンゼロットの依頼をよく受けるウィザードであり、今回は事故により戦闘中に異世界であるこちら側に飛ばされたこと。 そして、柊が直前まで戦っていたエミュレイターもまた、この世界に漂着していること。 そういったことが、頭の中に放り込まれたのがわかった。 結希の方を見れば、結希は必死に今与えられた情報を吟味しているようだった。しばらく目を閉じていた彼女は、やがて瞳を開けて真剣なまなざしでアンゼロットを見た。 「大体事情は飲み込めました。 正直信じがたい気持ちでいっぱいですが、遠隔地にいる相手に一方的に情報を送り込むなんてことを苦もなくやってのけるオーヴァードなんて聞いたことがありません。 もし私が知らないだけだとしても、そんな実力者が私に嘘をつく意味がありませんしね」 『わかっていただけて嬉しいですわ。ところでわたくしから一つお願いがあるのですが、聞いていただけますね?』 「内容によります。なんですか?」 『携帯電話でも置き電話でもいいですが、UGN日本支部長の霧谷雄吾(きりたに・ゆうご)氏とテレビ中継でお話をさせていただけませんか? 実はわたくしはあの方とは交流があるのですが、柊蓮司の処遇についてお話をしたいのです』 はぁ、と頷き、結希が携帯のテレビ電話機能を呼び出して霧谷とアンゼロットの会談をセッティングしている中、 手持ち無沙汰になった隼人は同じく蚊帳の外に置かれた柊を見て呟いた。 「……魔法使い、ねぇ?」 「なんだよ、疑ってんのか?」 「いや。ゲームとかのイメージだとやっぱり魔法使いって知力高そうなもんじゃないか?」 「どうせ俺は頭悪い(ちりょくひくい)よっ!?」 ……まぁ、高校ろくに行ってないしなぁ。それは隼人も同じわけだが。 閑話休題。 柊はふてくされた様に言う。 「仕方ないだろ。魔法がろくに使えなくても、魔法っていうシステムを利用した武器だとかを使えたり、存在そのものが魔法的なもんでも『ウィザード』って括られる。 俺がまともに使える魔法っつったら3つくらい。それも自発的に使えるとなれば2つだ」 「へぇ。魔法かー……見てみたいんだけど、問題ないか?」 興味津々、といった様子の隼人。 柊は唐突なリクエストに、何かを探るように虚空を少し見た後頷いた。 「たぶんな。月衣は問題なく動いてるみたいだし、これくらいならなんとかできるだろ。―――よっと」 言いながら、彼は何もない空間に手を伸ばし―――長い剣を抜き放った。 赤い宝玉。鋼の刀身。なんの曇りも無い刃金色。刀身の中心には、隼人にはあまりなじみのない彫りこまれた文字がある。 それを見て、隼人は純粋におぉ、と呟いた。 西洋剣を持つ人間は見たことがある。戦ったこともある。彼と因縁の深い人間だった。今も忘れることはない。 けれど、その剣は過去に見たことのある西洋剣とは違った。もちろん形自体が違うのは当然だが、なにか在り方が違うように思えた。 どちらが偉いとか、尊いとかいうつもりはない。が、存在の仕方が違うがそこに強い意志があることは同じ。 それが、純粋にきれいに見えたのだ。 そんな隼人に、魔剣を月衣内に戻した柊が声をかける。 「ものをしまったり出したりできる個人用の結界、月衣っていうんだけどな。これはウィザードならみんなが使える魔法だ」 「便利だなぁ。四次○ポケットか?」 「そこまで便利なもんじゃねえさ。収納限界はあるし、生き物は入れられないし。ス○アポケットもないしな。 で、えーとお前らもなんか妙な力があるんだろ?オーヴァードだっけ?」 柊の問いかけに、隼人があぁ、と頷く。 柊自身がそう悪い人間でないことがわかって安心したこともあり、隼人はオーヴァードやレネゲイドウィルスについての説明をはじめた。 18年前に存在が証明されたウィルス、レネゲイドウィルス。 そのウィルスのキャリア(潜在感染者)が、ある衝撃を受けて生まれる超人、オーヴァード。 オーヴァードに宿る能力、シンドローム。 そして、オーヴァードの組織であるUGNとFH。 一通り聞くと、柊は何度か頷いて隼人に確認する。 「で、お前らはUGNに所属するオーヴァード、ってことか。だから俺がどこの組織に属してるか聞いたんだな、FHに所属するなら何か企んでると考えるのが普通だ」 「そういうことだ。まぁ、無駄な心配に終わったわけだけどな」 「そりゃよくわからん人間が異世界から来たってのは普通は思わないだろ。俺も思わないし」 「お前のトコはちょくちょく異世界人とか来るんじゃないのか?さっきの変なので伝えられた内容だと、どうもお前は色んなとこに行ってるみたいだし」 「待て。あいつんなことまで話してんのかっ!?」 何気ないやりとりの中、結希が戻ってくる。隼人がたずねた。 「おう、お帰り支部長。どんな感じになりそうなんだ?」 「えぇと、一通りの話し合いが終わって、今は世界紅茶会議の次の日程の話になってるんで抜けてきちゃいました」 そんな顔見知りかよUGN日本支部支部長と世界魔術協会会長。 閑話休題。 結希が柊をじっと見て、話し合いの結果を伝えようとしたその時だった。 「支部長おおおおおぉぉぉっ!」 ばたんっ!とノックもなしに、その部屋に少し小柄な白髪のツンツン頭の少年が飛び込んできたのは。 ← Prev Next →
https://w.atwiki.jp/nwxss/pages/127.html
「なるほど、エミュレイターと手を組んだLXEの残党ねぇ……」 ブラボーとナイトメアの説明を聞き終えて、パピヨンはいかにも興味がなさそうな調子で息を吐き出した。 手にしたポテトを指で弄くりながら、半ば確認するように彼はブラボーに目を向ける。 「俺とバタフライ以外でホムンクルス精製を実践できそうなのはムーンフェイスぐらいだが?」 「ムーンフェイスはホムンクルス移住初期段階で月へ渡っている。 元々奴は移住に乗り気だったし、戻ってくる手段もないだろうからな」 「……。まあ、いいか」 少しだけ沈黙した後パピヨンは呟き、ポテトを口の中に放り込んだ。 指についた塩を舐め取りながら、視線を虚空に向ける。 「他に錬金術に精通しそうな奴……いたような、いなかったような」 「随分曖昧だな、おい」 「憶える価値のないモノを憶えておくような脳の無駄使いはしない主義なんでね」 嘆息交じりに呟いた蓮司に鼻で嗤いつつ、パピヨンは蓮司のトレイに載っていたハンバーガーを取り寄せた。 「あ!? お前、それ俺の!」 「情報提供をしてやるんだ、この程度でガタガタ騒ぐな」 拳を震わせる蓮司をよそにパピヨンはハンバーガーを頬張る。 ゆっくりと咀嚼しながら彼は一同を順繰りに見回し、そして完全に食べ終わった後ドリンクに手を伸ばしながら口を開いた。 「……そういえば居たな、一人」 「本当か?」 「ああ。ついでに言えば、お前等の情報は一つ間違っている」 「何?」 「状況を考えれば奴に相応しくはある。だが『手を組んでいる』というのは違うな」 「……どういう事だ?」 「簡単な話だ。ソイツはエミュレイターと”手を組める”ほどの器じゃあない」 LXEに所属していた人型ホムンクルス『マーニ』。 その男はバタフライが造り出した蝶野製ホムンクルスではなく、ムーンフェイスが造り出したモノであるそうだ。 その能力はお世辞にも高い方とはいえず、バタフライ達からは戦力として見られていなかったために核金を与えられる事もなかった。 なまじムーンフェイス謹製であるという事の特殊性から、マーニはLXEでもかなり肩身の狭い存在だった。 だが、能力的にも有用性にも蝶野製のホムンクルスに劣る彼を、何故かムーンフェイスはよく侍らせ研究の助手のような事をさせていたらしい。 気まぐれにパピヨンがムーンフェイスに尋ねてみれば、彼は三日月の顔に同じような口角の尖った笑みを浮かばせてから漏らしたのだ。 『駄作は駄作なりに愛着ができるもんだろ?』 「ちょくちょく俺やバタフライの資料に手を伸ばしてたみたいだから、多少の謀反気は持ち合わせていたんだろう」 「……自分の研究に探りを入れられてお前は何もしなかったのか?」 「俺もバタフライの研究資料には手を出していたからな。 それにあの時はLXEに保護”されていた”手前ムーンフェイスの玩具に手を出す訳にもいかん。まあ――」 パピヨンは椅子に背を預け、この場にはいないマーニに語りかけるように口角を吊り上げて――嘲笑した。 「研究に行き詰ったのかは知らんが、エミュレイターなんぞに媚を売る時点で底など知れている。 昔っから神や悪魔に縋る輩は、自分の力では何も為しえない無能者だと相場が決まっているからな」 「つまり今回の首謀者がそのマーニというホムンクルスだったとして、ソイツはエミュレイターと組んでいるのではなく利用されている可能性が高い、と」 「多分な」 大きく溜息をつき、パピヨンはトレイに載ったポテトに再び手をつけた。 蓮司達がここを訪れる前に頼んだそのポテトは少ししなびていて、彼は不愉快そうに眉をしかめて見せる。 「まったく、ヒトがちょっとココを空けている間に随分とまあつまらない事になってるもんだ」 「つまらない事……?」 「今更LXEの亡霊なんぞ出張ってきても全く面白くない。エミュレイターが絡んでいるあたりは多少興味があるが」 「……てめえ」 パピヨンのおどけるような素振りに、蓮司は思わず声を潜めて立ち上がった。 アンゼロットにこき使われてではあるが、普段からエミュレイター……魔王達と戦っている彼としては、パピヨンの言い方は 少々腹に据えかねるものだった。 「興味がある、なんて言ってられる事じゃねえだろ」 「何故?」 蓮司から滲み出る殺気を平然と受け止めてパピヨンは彼を真っ向から見返す。 その態度を見て蓮司は更に語気を強め、食ってかかるように口を開く。 「奴等が動けば世界が綻ぶ。放っておけば、この街だけじゃなくて世界が滅ぶんだぞ」 「そう、それ。世界の滅びだ」 「あ?」 「お前等ウィザードの言う『世界の滅び』というのは『世界そのものの消滅』ではなく、人間の構築する『常識』という概念的な世界の滅びだろう? 人間の秩序社会がどうなろうと俺の知ったことじゃあないし、むしろ俺としては――」 ――そんな世界なら見てみたくさえある。 愉悦の混じった哄笑を浮かべながらパピヨンは蓮司に向かってそう吐いた。 同時に蓮司の背中に冷たいものが走り抜ける。 この男は危険だ、と頭の中で警笛が鳴り響く。 蓮司は拳を握り締め、テーブル越しにパピヨンに僅かに詰め寄り――カズキの腕によって制止された。 「……カズキ?」 「……蝶野。お前、そのマーニって奴とかエミュレイターに協力するつもりか?」 向けられた蓮司の視線に応える事なく、カズキはパピヨンを見つめて問いかける。 パピヨンはカズキの目を心地良さそうに受け止めながら、答えた。 「だとしたら?」 「――ここでお前を止める」 「止める……聞こえの良いコトバで誤魔化すなよ、偽善者。 俺が奴等と協力して世界を滅ぼうそうとするなら、どうするんだ? 殺すか?」 「……」 パピヨンは挑発的に笑んでからカズキをねめつける。 カズキは彼の視線を受け止めたまましばし沈黙し、そして彼を真っ直ぐに見据えたまま、言葉を紡いだ。 「……お前が、昔に命を奪った人達の事を忘れたというのなら。……今の新しい世界に生きていけないっていうのなら」 「………」 語るカズキに殺気は微塵もない。 良く言えば信頼、悪く言えば期待を寄せているに過ぎない彼の言葉にパピヨンは沈黙し、やがてふんと鼻を鳴らして肩を竦めた。 「俺は今回は傍観だ、他人の尻馬に乗るのも乗せられるのも御免だからな。 もしやるとするなら、俺自身の手でやる。でなければ面白くもなんともない」 「……そっか、良かった」 「何がいいんだよ……」 安堵したように漏らしたカズキに、嘆息交じりに剛太が言った。 蓮司としては微妙に納得はいかなかったが、蒸し返してまで事を続けるつもりはなかった。 振り上げかけた拳の下ろし所をとりあえず心の内に収め、蓮司は再び椅子に腰を下ろす―― 「……格好はともかく、その意見だけは賛成するわ」 ――下ろしかけたところで、鈴のように響いた声に蓮司を始めその場にいた六人が目を向けた。 六人が囲んでいる場から二つ離れたテーブル。 そこに背を向けて座っている少女がいた。 ポンチョを羽織ったその少女は銀糸の髪を揺らして振り返り、蓮司達に顔を向ける。 「久し振りね、柊 蓮司」 指に付いた塩を軽く舐めとりながら、少女――”蝿の女王”ベール=ゼファーは妖艶に微笑んだ。 ※ ※ ※ 「はわー……ごめん、遅くなっちゃった」 くれはが屋上に姿を現したのは、それから少ししての事だった。 銀成学園の制服は真新しかった事もあって少々着られている印象だったのだが、今彼女が纏っている紅白の巫女衣装は 普段見慣れない斗貴子から見てもくれはに相応しい格好だった。 くれはは軽く肩を上下させながら、待っていた斗貴子と灯を見やる。 「んん? 二人とも、何かあった?」 「……いや」 僅かに苦笑する斗貴子にくれはは小さく首を傾げる。 何時の間にか二人の雰囲気が少しだけ柔らかくなっていた。 再び疑問を発しようと出しかけた声を遮ったのは、灯だった。 「……準備は終わった?」 「はわ……うん、一応やってきたよ。結構広いし場もあんまり良くないからちょっと時間かかったけど、少しぐらいは持つと思う」 「『彼女』は?」 「あかりんとひーらぎが出てって少ししてからいなくなった。何処にいるかまではちょっと……」 「……準備? 彼女? 何の話だ?」 二人の会話に眉をひそめて斗貴子が問いかける。 すると灯は至って機械的に彼女を見返し、答えた。 「寄宿舎にいるエミュレイター……河井 沙織の事」 「河井 沙織……だと」 冬の寒空が更に凍りつくような緊張が走った。 斗貴子は努めて冷静な声で、しかし顔と気配には刃のような殺気を孕ませて灯に一歩詰め寄った。 「……どういう事だ」 「融合体とは別のエミュレイターが河井 沙織に憑依している。何時からかはわからないけど、この街の被害者の何人かは ソレの手によるもの。対処しなければならない」 「あの子が……この街の人間を?」 「違う。彼女ではなく、エミュレイター」 確かに、潜在的に負の感情を持っている人間はエミュレイターに憑かれやすい傾向にある。 だが、概ねの場合において憑かれている人間の意識は全く関係なく、侵食されたエミュレイターに操られてプラーナの捕食を行うのだ。 例えば、今街の何処かにいる河井 沙織のように。 「……それがわかっていて何故今も放っている。エミュレイターの憑依先がわかっているならわざわざ街に出る必要などないだろう」 「……それが柊 蓮司の指示だから」 「……蓮司の?」 「私達の事は既に彼女に知られてしまっているから」 錬金の戦士である斗貴子とカズキは勿論、直接彼女に接触した蓮司も、そして今日昼休みに出逢った灯とくれはも、既に河井 沙織には知られてしまっている。 この上で何か行動を起こせば、最悪彼女に憑いているエミュレイターは寄宿舎を取り込んで月匣を展開しかねない。 そうなればそこにいる人間全員が、巻き込まれる事になってしまう。 「……だから、とりあえずはこれまで通り私達は寄宿舎を離れる」 「で、さーちゃんが居なくなった後で寄宿舎に結界を敷いたの。私達が行動を起こしたのに気付くはずだから、後は向こうの反応待ち」 仮に気付かず街で何らかの行動を起こしたとしても、街を巡回している蓮司達がすぐに駆けつけられる。 それに気付いて引き返し、寄宿舎に戻ったとしてもそこには結界がある。 即興とはいえ陰陽の名家たる赤羽の次期当主であるくれはが敷いた結界だ、破壊するまでに多少の時間はかかるだろう。 それまでにここにいる三人が対応するのは十分に可能だ。 また、その段階で月匣を展開したとしても、同じく結界によって寄宿舎の生徒達への被害もある程度までは防げるはず―― 巡回に出る前に蓮司が二人に説明した段取りを斗貴子に聞かせると、彼女は眼を丸めて呆然とするばかりだった。 「……彼は優秀なウィザードなんだな」 「――ぷっ、あはは!」 僅かな感嘆と共に吐き出した斗貴子の台詞を聞いて、くれはは思わず噴き出してしまった。 「……何故そこで噴き出す?」 「だって、ひーらぎを褒める奴なんて斗貴子さんが初めてなんだもん」 「……いつもは『下がる男』とか言われてる男だから、柊 蓮司は」 「さ、下がる……?」 「任務のために学年下げられたり、能力(レベル)下げられたり色々されてるんだよ、ひーらぎは。今回も二年になったしねー」 「なんだそれは! 学年はともかく、能力の制限なんて任務の支障になるだけだろう!」 「んー、なんか因果律って言ってね。しかるべき能力でないとダメだって任務が前にあったんだって」 「滅茶苦茶だ……」 「……まあ、柊 蓮司だし」 「蓮司……キミは……」 かける言葉も見当たらず、斗貴子は思わず顔を伏せた。 錬金戦団にも、坂口照星大戦士長やキャプテンブラボーなどを始め性格的には奇異な人物が少なからずいる。 だがそれでも、彼等の活動はウィザード達のそれに比べれば真っ当な部類といえるだろう。 斗貴子は先日ウィザードを率いるアンゼロットによって与えられた被害を思い出し、それを受け続けている蓮司に同情を禁じえなかった。 「まあ、アンゼロットにこき使われてる分経験は私達の中じゃぶっちぎりだし、ひーらぎに任せとけばさーちゃんもきっと助かるよ」 何故か軽い調子で言ってのけるくれはの言葉に、斗貴子の思考は現実に引き戻された。 そう、最も重要な事をまだ聞いていなかったのだ。 「……助けられるのか?」 「まだ時間はある、とは言ってた。だからこのプランを立てたんだと思う」 錬金の戦士が同じ寄宿舎にいたにせよ、河井 沙織が寄宿舎に一切の被害を出していないというのはエミュレイターの性質上明らかにおかしい。 考えられる可能性としては―― 「――河井 沙織の意識が、自分のコミュニティである寄宿舎にいる人達を襲うことを拒絶している」 翻して言えばそれはまだ彼女の精神がまだ完全に侵食されていない事の証明だ。 それならばまだ、助ける事ができる。 「どうすればいい」 灯を見据えて尋ねる斗貴子に、彼女は数瞬沈黙した後静かに口を開いた。 「……『器』に物理的損傷を与えてエミュレイターを乖離させる」 「器に損傷……まさか」 「河井 沙織を攻撃し、傷付けるというコト」 「……っ」 感情を込めない灯の声に斗貴子は唇を噛み、拳を握り締める。 それを紅の瞳で確認しながら、更に灯は畳み掛けるように宣告する。 「どの程度まで傷つければいいのかは、わからない。最悪死ぬまで乖離しないかもしれない」 「……」 「で、でも戦闘不能にまで追い込めば、捕縛して乖離させる術式を組めるから。だから――」 「いや、いい」 くれはの言葉を遮って、斗貴子は二人から目を切る。 そして眼下に広がる街並み――何処かに河井 沙織がいるはずの夜闇を見据えて、小さく息を吐いた。 それだけで彼女は沸きあがりかけた衝動を抑え込んだ。 「……できる?」 「侮るな」 視界の外から問いかける灯の声に、斗貴子は鋭く返す。 任務に対して冷徹であるべきという戦士の鉄則をまだ忘れていない事に安堵と僅かな自嘲を覚え、そしてふと斗貴子はカズキの事を思い出した。 カズキは今柊 蓮司と共に街にいる。蓮司は既にこの事を彼に話したのだろうか。 果たして彼は、その時どういう反応をするのだろう、と。 夜闇の静寂の中、携帯の着信音が響いた。 斗貴子はポケットから携帯を取り出して相手を確認すると、目を見開いた。 携帯の小さなディスプレイに映し出された発信者は――『河井 沙織』。 ← Prev Next →
https://w.atwiki.jp/nwxss/pages/159.html
星が瞬き、満月が優しく辺りを照らす晩から、物語は始まる。 (クソったれ!) 一向に血の止まらない脇腹を必死で手でおさえ、“不可視の力”で空をかけながら少女は1人毒づく。 油断していなかったと言えば嘘になる。 少女たちと奴らの長い長い戦いに終止符が打たれて、6年。 あれからは大きな戦いらしい戦いもなく、少女はあてもなく放浪の旅を続けていた。 今回のことを知ったのは偶然だった。 たまたま日本に立ち寄ったときに聞いた、風の噂。 少女の“家族”が住むこの街で、化け物が現れたと言う噂。 ほんの軽い気持ちだった。 どうせ何かの間違いだろうし、もしそれが“同族”だったとしても自分ならばどうとでもなる。 そう判断して、ここ2~3日夜の食事ついでに見回りをしていたのだが… (ドクターアラキ…なんであいつが生きてんのよ!?) 出会ったのは“同族”の中でも最強最悪の力を持ち…かつて少女たちが倒したはずの男だった。 (あ、もう…だめ…) 少女の高度が緩やかに落ち、地面に墜落する。血を失ったことで、少女の力も衰えているのだ。 (なんでこの程度の傷が治んないのよ…) うずくまり、痛みにうめき声をあげながら、少女は考える。 本来ならば、少女にとってこの程度、傷のうちにも入らない。 かつて、マシンガンの弾丸を数百発受けて、それを3秒で癒したという彼女ならば。 だが、運悪く再会したドクターアラキから受けた傷 …手から唐突に表れた漆黒の球体から受けた傷は、彼女の基準からすると異常に治りが悪かった。 (マジでやばいわ…) 少女には本能で悟る。このままだと、本気であの世いきの片道バスに途中下車不可で乗ってしまう。 それを防ぐには…十分な“食事”が必要だ。 少女は辺りを見渡す。だが、いかんせん深夜の住宅街、彼女の“食事”の姿は見えない。 (この際贅沢は言ってらんないわね…) 残業帰りのサラリーマンかOL。そのあたりで妥協するしかないだろう。 そもそも普通に探しても少女の“食事”が見つかることは珍しいのだ。 少女の好みにぴったりの“食事”がそうそうこんなところを歩いているはずが… 「君、怪我をしているじゃないか!?大丈夫かい!?」 あった。 少女は0.1秒で決定した。今夜のディナーのメニューを。 もちろん内容は目の前の、眼鏡をかけた“美少年”だ。 * 一方の少年は驚きながらも彼女へと近づく。 手分けして夜の見回りを初めた初日でいきなり出くわした、怪我をした少女。 “事件”の手がかりになるかもしれないし、何よりどう見ても危険な状態の彼女を見捨てるわけにはいかない。 「た、たすけてほしいでしゅ…」 少女が年相応の舌ったらずの声で少年に懇願する。 「もう、大丈夫だよ。僕が来たからには、ね」 安心させるように少女に声をかけながら、少年は少女にゆっくりと近づいて行く。 見た限りだと、腹の傷からの失血が酷い。すぐに傷をふさぐ必要がある。 仲間への連絡はとりあえず後回しだ。 そして、少年はその少女を抱き起こす。 「い、いたいでしゅ…もっとやさしく…」 「ああ、ごめん…」 痛みに抗議の声を上げる少女に謝りながら、少年は少女を改めて見る。 黄色いリボンで持って2つに結われた赤い髪。 少し釣り上った目も、髪と同じく赤みがかっている。 つくりからすると、少年と同じ北欧系の出身なのか、よく整った青白い顔はまるで天使のよう。 ピンク色のスカートとあわせられた、胸元に赤いリボンをあしらったクリーム色の上着は、今は少女自身の血でどす黒く汚れている。 そして、彼女の格好を少し奇妙なものにしている、髪と同じ色の大きい赤いマント。 普通の人間ならばこんな時間に1人でいることも含めて、不思議に思うところだが、あいにくと少年はこの手の服は見慣れており、疑問には思わない。 「ちょっとだけ、我慢して」 そう、少年は声をかけて、ゆっくりと詠唱を開始する。 「…《キュアウォーター》」 少年の手から水があふれ、少女の傷に降りかかる。 その水が少女の体に吸い込まれる。そして、それと同時に少女の傷が驚くべきスピードで塞がっていく。 「よし…これでとりあえずは大じょう…ぶっ!?」 治療魔法が無事発動し、にこやかに少女に笑いかけようとした瞬間、少年は押し倒された。 ついさっきまで抱きかかえていた、少女に。 「ごめんなさい。今、アタシが生き残るには、どうしても必要なのよ」 先ほどまでの舌ったらずの言葉とは違った、大人びた口調で少女は少年に語りかけ、笑みを浮かべる。 その可憐な唇からのぞくのは…白く、尖った犬歯。 「なっ…君は、吸血鬼なのか!?」 圧倒的な力で抑えつけられながらも少年は少女の正体に気づく。 「正解。だったらアタシが何をしたいかも、分かるでしょ?」 そう言うと少女は少年の白い首筋に牙を突き立てる。 喉を鳴らして、血液を嚥下する。 (何これ…すっごくおいしい!) 少年の血は今まで飲んだ中でも最高の味だった。 普通の血とは違う、強力な“何か”が込められているのを感じる。 若く、生命力に満ちたその血を取り込んだ身体に力と“何か”がみなぎって行く。 その感覚に、少女は震えた。 「…ぷはっ!」 いつもの倍は吸ったところで、少女は牙を抜き、食事を終える。 (おいしかったわ。しばらくは彼から血を貰おうかし…ら…) 完全に傷が塞がった安堵と満腹したせいか、眠気が襲ってくる。 少女は目の前の少年を見定める。普通の人間に見える。 少なくとも少女をどうこうできるような存在では無い。 少女はそう判断し、少年に言う。 「ごめんなさい…悪いんだけど、少し眠るわ。適当に太陽に当たらないようにしてくれれば、それでいいから。 …変なことしたら、そのきれいな顔が無くなっちゃいましゅから、気をつけるんでしゅよ?」 少年にそう伝えると、少女は満足げに眠りにつく。可愛らしい寝息が聞こえてくる。 「まいったな…」 1人残された少年は、そう呟くと立ち上がる。急激に血を失ったためか足もとが少しふらつく。 それを振り払うように頭を振ると、懐から携帯電話を取り出す。仲間に連絡を取るために。 「…ああ、いのり君。僕だ。静だ。実はちょっと困った事になったんで、すぐ来てくれないか?」 今回の事件のパートナーである魔物使いの少女に要件を伝える。 「…うん。実はね、吸血鬼に会ったんだ。いや、僕にも理由は分からないんだけどね。 とりあえず、アパートまで運んで、事情を聴こうと思う。 運ぶのを手伝ってくれないか?…僕一人じゃ無理だよ。ああ、じゃあ頼んだよ」 そして電話を切り、溜息をつく。 「やれやれ…この“世界”には“ウィザード”はいないって話だったはずなんだけどね…」 そう、少年が呟いた。 かくして、満月の照り輝くその晩、魔術師の少年と吸血鬼の少女は、初めての邂逅を果たした。 * ―――話は3時間ほどさかのぼる トンネルを抜けると、異世界だった。 「異世界…ねえ」 窓の外に広がる田園風景を眺めながら、要いのりは呟く。 「どう見ても日本にしか見えないんだけど、気のせい?」 「ははは。もっとファンタジーな場所でも想像してたのかい?」 いのりの言葉に笑って返す少年の名は静=ヴァンスタイン。 魔術師の名門、ヴァンスタイン一族の1人にして歴戦のウィザードである。 「いやまあ、それは聞いてたとおりだけど…あんまり異世界っぽくないって言うか…」 辺りを見回す。電車の中には学校帰りの高校生、中学生がちらほらと乗っている。 彼ら全てが実は異世界人ですと言われても、正直、困る。 「それは、僕もだ。だが、確かにここは異世界さ。魔力の差で分かる」 異世界と行っても、そこはある一点を除いてファー・ジ・アースとほとんど変わらない。 地理、言語、文化…そのほとんどが共通した、平行世界。 この世界の存在を、ファー・ジ・アース側が認識したのはごく最近だった。 JR長野駅に、毎月4のつく日、午後4:44分ジャストにアナウンス無しで下り電車がやってくる。 それに乗ると異世界に連れて行かれる。 全国各地で聞かれるような、他愛もない都市伝説。問題は、それが事実だと言うこと。 ここ半年の世界結界の弱体は、そんな都市伝説をも許容してしまう。噂が本当になってしまったのだ。 そんな風にポンポン開いた、異世界へ至る扉。それの調査が行われるようになって、大分経つ。 「んでこの先の…」 「JR飯波駅。僕らの世界には存在しない駅だけど、そこで、降りることになる」 「でも、本当なの?この世界が、エミュレイターの侵略を受けてるって」 窓の外は相も変わらずのどか~な風景が延々と続いている。平和そのものだ。 どう見ても、物騒な事件その他が起こっているようには見えない。 「う~ん。詳しいことは分からないけど、この世界に向かった調査隊が、この街で消息を絶ったのは確かだ。 消息を立つ直前、月匣の発生の報告を残してね」 いのりの疑問に、静は答える。 「だからこそ、更なる調査及び原因の究明のためにマユリさんから僕に依頼が来たってわけさ」 「でも、だからってあたしたち2人じゃちょっときつくない?この世界って確か…」 「ああ、ウィザードはいない。世界結界そのものが無い世界だからね」 それが、この世界とファー・ジ・アースの唯一にして、最大の違いだった。 この世界では、“常識”によって“非常識”をはじき出す世界結界が存在しない。 そのため、イノセントが非常識を目にしても“壊れない”代わりに、非常識の存在の力が弱まることも無い。 もし、この世界にエミュレイターがいると言うのなら、それは普段戦うそれより強いものになるだろう。 「まあ、ウィザードも人手不足だからねえ」 ファー・ジ・アースの世界結界の弱体から半年、世界はまだまだ混乱に包まれている。 「色々申請してはみたんだけど、任務用に魔法と魔術師一人じゃなんかあったら死ぬからって言って前衛1人分の手配してもらうのが精一杯だったよ」 「そう、問題はそれよ!」 静の言葉に、いのりはビシッと指を突き付けて、言う。思い出すのは昨日のこと。 静に頼まれて出かけることになった。1ヶ月くらい帰ってこないと言った時の、双子の姉の表情。それは、一言で言えば… 邪魔者が、いなくなった 今頃、あの姉は口うるさい妹がいなくなったと、喜んでネットゲーム三昧だろう。 一応様子を時々見に行ってくれるように京介に頼んでは来たが… 「ってか前衛なら京介でもいいじゃん!」 あのダメ姉を1人で放置。いのりにとってあまりに危険な選択だった。いろんな意味で。 「う~ん。最初は京介君に頼もうかなと思ったんだけどね、この世界だと難しいみたいなんだ」 いのりの言葉に、静は困ったように言う。その言葉にいのりは不思議そうに聞き返した。 「どゆこと?」 「ほら、京介君は、勇者だろ?」 「それがどーしたのよ?」 静は彼女に説明する。 「勇者と言うのは、元々はエミュレイターに対抗するべく、世界結界が生み出したものだ。 だから、その力の源である世界結界のないこの世界ではその力が大きく制限されてしまうらしい。 一応ウィザードとしての力はつかえるけど、プラーナは普通のウィザード並にしか使えないだろうね」 静の言葉にいのりは一応納得する。莫大なプラーナのない勇者など、ただの壁にしかなるまい。あげの入って無いきつねうどんのようなものだ。 「…だったら、別のウィザードのつてをたどるとか、できなかったの?」 だが、それでも心が納得しない。いのりはさらに食い下がった。 「…」 「…」 「……」 「……」 しばしの沈黙。静は眼をそらし、外を見ながら、言う。 「せ…先生ハ、日本ニキテ、日ガ浅イデェス!ダカラ、任務ニツキアッテクレルヨーナ友ダチ、イマセェン……」 静の目元がきらりと光る。肩も震えているようだ。 「…だ、大丈夫。友達なんてすぐできるよ。だから、ファイト!」 いのりがポンと肩を叩く。うっかり地雷を踏んだことに気づいたのか、笑顔が引きつっていた。 静=ヴァンスタインが来日してはや1年と半年、彼には、いまだに友達がいなかった。 ← Prev Next →